【美術解説】レイ・シーザー「生まれながらの犬」

レイ・シーザー / Ray Caesar

ロココ主義的な世界を現代の絵柄で再現


Arabesque 2009
Arabesque 2009

概要


レイ・シーザー(1958年10月26日-)はイギリス・ロンドン生まれ、カナダ・トロント在住のポップ・シュルアリスト。デジタル画家。アントワーヌ・ヴァトーの造形に影響を受け、子ども時代の不安な記憶や潜在意識にある世界観を表現している。

 

シーザーは、なかでもジャン・シメオン・シャルダン、フランソワ・ブーシェなどフランスのロココ時代の美術家に多大な影響を受けており、ロココ的な雰囲気を現代的な絵柄で表現している。ほかにフリーダ・カーロやサルバドール・ダリ、ジョゼフ・コーネルなどのシュルレアリスト、20世紀のアメリカの具象絵画などから影響を受けている。

 

絵画以外では、アルフレッド・ヒッチコック、小津安二郎、コーエン兄弟、ティム・バートンなど映画監督から影響を受けているという。

 

レイ・シーザーはロウブロウアーティストではあるが、特にセレブやファッション業界などで人気が高く、マドンナはシーザー作品をコレクションしており、最も好きなアーティストの1人だと賞賛している。

 

web:http://www.raycaesar.com/

facebook:https://www.facebook.com/pages/Ray-Caesar/11084209311

「A BEAUTIFUL THOUGHT」(2014年)
「A BEAUTIFUL THOUGHT」(2014年)
「LA CHASSE 」(2011年)
「LA CHASSE 」(2011年)
「FRENCH KISS」(2009年)
「FRENCH KISS」(2009年)

略歴


Kitten 2003
Kitten 2003

1958年10月26日、レイ・シーザーは4人姉弟の末っ子として生まれた。シーザーは「生まれつきの犬」であり、女性家族から犬の身分を与えられていたと語っている。

 

現在の少女のポートレイト作品が5才のときからの、姉たちとの人形遊びの延長線上にある。最初に借りた姉の人形のことや、母親の裁縫道具の入ったバスケットのこと、ボール紙で作った人形用のジオラマやアルミホイルで作った人形衣装などが描かれる絵は、小さいころから女系家族に囲まれて大きくなった男特有の繊細さや潔癖さが現れている。

 

シーザーの絵のたいては少女であるが、シーザーによれば実際のところそれは少女ではないという。多くは『真実の王子』や『ディオスクーロイ』などをモチーフにした少年に女装させたものだという。またシーザーは、子どものころに2人の姉から女装させられていたため、描いている女装少年は自分自身だという。

 

シーザーはまた、「犬」のようにやんちゃな子どもで、小さな家の各部屋の壁や床など、部屋のいたるところに絵を描いては遊び、幼少から芸術に対して関心を抱いていた。シーザー一家は、近所の人たちトラブルを起こしたのをきっかけに、カナダのトロントに移住することになる。成長するにつれて、シーザーの絵はアブノーマルで正統から外れたものになっていき、自分の絵は一般の人に見せるのに向いていないと感じ始めたという。

 

977年から80年までシーザーは、オンタリオ美術大学でまなぶ。卒業した後、カナダ・トロントの小児科病院の美術写真部署で働く。そこでさまざまな子どもたちの治療の研究のために必要とされる医学資料を作成したり、子どもたちにアートセラピーを施していた。仕事を続けられなくなった理由は、あまりにもショッキングな資料を目にしたことによるものだという。しかし、小児科病院で目撃した光景は潜在意識にしっかりと刻み込まれ、その後、自分の作品に反映されるようになった。

 

その後、建築会社、デジタルサービス局、ゲーム会社などさまざまな職についたが、最終的には1998年から2001年までシーザーはトロントにあるGVFX社でシニア・アニメーターとして勤務し、3Dモデリングソフトウェアの使い方を覚える。。3Dアニメーションソフト「Maya」を使って、コンピュータモデリング、アニメーション、ビジュアル・エフェクトの仕事をこなしてきた。いくつかのアワードでノミネートもされ、奇妙な香りのするタキシードを着てパサデナのレッドカーペットを歩くこともあった。

 

現在は妻のジェーンや狼のボニーと集合住宅に暮らしている。アボガドが食べるのが好きで犬であることは気にしていない。