【作品解説】バンクシー「Better Out Than In」

ベター・アウト・ザン・イン / Better Out Than In

2013年NY滞在時に発表したシリーズ作品


バンクシー『Better Out Than In』2013年
バンクシー『Better Out Than In』2013年

概要


制作日 2013年10月1日から10月31日
場所 ニューヨーク
種類 レジデンス作品
作者 バンクシー

『Better Out Than In』は、2013年10月にニューヨークに滞在して制作されたバンクシーによるレジデンス作品。『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』という名前でよく知られている。

 

バンクシーは2013年の10月1日から31日まで、毎日少なくとも1つの作品を発表し、専用のウェブサイトとインスタグラムのアカウントの両方でその様子を記録した。作品の大半はステンシルグラフィティで、バンクシーの特徴である政治的メッセージが強いものが中心だった。その他の作品やマルチメディア形式の展示では、ダークなユーモアや風刺を取り入れた作品もあった。

 

10月1日から31日まで制作した作品一覧はこちらを参照

 

企画の予測不可能性とバンクシーの捉えどころのなさがファンを興奮させる一方で、競合するニューヨークのストリート・アーティストや荒らしたちによる、バンクシー作品の破壊も問題となった。バンクシーの作品は本来違法なものであるにもかかわらず、警察への正式な苦情はなかったと言われている。

 

作品が描かれた場所の土地所有者のほとんどはバンクシーの作品を歓迎し、一部は破壊されないように作品を保護されている。しかし、1ヶ月間にわたるストリート・アート活動は、批評家たちの議論だけでなく、政治的に強力なメッセージの作品が多かったこともあり一部の地元の人々の間で論争を引き起こした。

 

2014年に公開されたHBOドキュメンタリー映画『Banksy Does New York』でニューヨーク滞在中に活動した様子が記録されている。

背景


2013年10月1日、バンクシーは自身のウェブサイトで、1ヶ月間ニューヨークでショーを開催することを発表し、その後、イベントを宣伝するポスターがロサンゼルスに現れ始めた。

 

タイトルの「Better Out Than In」は、印象派のポール・セザンヌの言葉を引用したもので、「スタジオの中で描かれたすべての絵は、外で描かれたものにはかなわないだろう」という意味だという。

 

『ヴィレッジ・ヴォイス』のインタビューでバンクシーは、「ニューヨークは汚い古い灯台のようにグラフィティ画家を呼んでいる。私たちは皆、ここで自分自身を証明したいと思っている」と述べ、人通りが多く、隠れ家的な場所に最適な理由であることからニューヨークを選んだという。

代表的な作品


■10月1日『グラフィティは犯罪である』

バンクシーが『Better Out Than In』で制作した作品は、おもにステンシルで構成されており、その多くは政治的なものである。最初の作品では、「ストリートは遊びの中にある」とキャプションを付け、『グラフィティは犯罪である』と書かれた看板の上でスプレー・ペイントのボトルを手に取る子供の姿を描いている。

 

この看板は盗まれた後、クイーンズ区を拠点とするグラフィティ・グループ「スマート・クルー」によって「ストリート・アートは犯罪である」という新しい看板に取り替えられた。彼の他の作品のほとんどと同様に作品には音声の伴奏がついており、ウェブサイト上で聴くことができるほか、フリーダイヤル800でも聴くことができる。

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: The street is in play Manhattan 2013 #banksyny

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■10月5日『移動式庭園』

イーストビレッジでは、虹や滝、蝶などが描かれたプロップを含むバンクシーの5作目の作品が移動式庭園』が配送トラック内に展示された。

『移動式庭園』
『移動式庭園』

■10月6日『ダンボの撃墜』

バンクシーの各作品はニューヨークの5つの行政区の至るところに設置され、中には純粋なマルチメディア展示もある。10月6日には芸術の中心地であるブルックリンのダンボで、ウォルト・ディズニーのキャラクターであるダンボがシリア反乱軍に撃墜されたビデオを投稿したが、その意味の背景に多くの人が困惑した。

■10月9日『2007年7月12日バクダッド空爆』

精巧で政治的に強い作品の一つを発表した。それは、ローワー・イースト・サイドの空き地にある車とトレーラーにスプレーで描かれた武装した兵士と馬に焦点をあてたものだった。

 

作品についての解説ではなく、2007年7月12日のバグダッド空爆の機密ビデオの音声が付随されていた。 解体された後、車はこれ以上の汚損を防ぐためにレッカー移動された。

■10月11日『羊たちのサイレン』

11日には、食肉産業の「さりげない残酷さ」を問う政治的な展示が行われた。『羊たちの沈黙』と題された作品は、鳴き声のするアニマトロニクスの剥製で埋め尽くされた軍用貨物トラックで移動しながら展示された。このトラックはマンハッタンのミートパッキング地区でデビューを飾ったが、その後数週間で市内の他の地域を巡回した。

■10月13日 路上でバンクシー作品を60ドルで販売

10月13日、バンクシーはインスタグラム上に、中年男性がセントラルパークの外で売っていた60ドルの作品が、本物のバンクシーのサイン入りのキャンバス作品であったことを告知する投稿をした。7つの絵画の合計が420ドルを取って販売されたという。

 

販売は事前に発表していなかったため、観光客や公園を散歩していた人は、BBCが推定した絵画の価値に気付いてなかったが、現在は32,000ドル以上になる可能性がある。

 

2点をそれぞれ60ドルで購入したニュージーランドの女性は、後に2014年にロンドンのオークションで125,000ポンドでそれらを販売した。

■10月15日『ローワー・マンハッタンのスカイライン』

10月15日、バンクシーはこのシリーズの中で最も物議を醸した作品の一つ、かつての世界貿易センタービルをモチーフにして『ローワー・マンハッタンのスカイライン』を発表した。ハイジャックされた飛行機がノース・タワーに激突した場所に焦げたオレンジ色の菊が描かれていた。

 

この絵はトライベッカ地区にあるビルの側面に描かれ、またブルックリン・ハイツ・プロムナードに沿ってダウンタウンのスカイラインに面した場所にも同様のものが描かれていた。

 

ブルックリン・ハイツの作品は最終的に市によって化学薬品と強力な圧力洗浄機で消去された。除去は、バンクシーが自身のウェブサイトで市を愚弄したあとに続いて行われた。

 

一方、トライベッカの方の姉妹作品は神社としての機能を果たし、横に花を置いたり、絵に触れないようにとメッセージが書かれた。最終的には保護のためにアクリルガラスが設置された。

トライベッカ版『ローワー・マンハッタンのスカイライン』
トライベッカ版『ローワー・マンハッタンのスカイライン』

■10月16日『マクドナルドと靴磨き』

10月16日、ロナルド・マクドナルドの巨大なグラスファイバー彫刻を作り、実在するバンクシーのアシスタントがマクドナルド彫刻の靴を磨いている作品を発表した。他の政治的声明でキャンバスと街路を超えて彼の作品を拡張しました。

 

ブロンクスでお披露目され、数日間、ランチタイム頃に市内にあるさまざまなマクドナルドの店舗の外に移動しながら展示された。この作品は、「巨大企業の洗練されたイメージを保つために必要な重労働」を批判しているという。

■10月18日 オス・ジェメオスのコラボ作品

10月18日には、ストリート・アーティストのオス・ジェメオスとのコラボレーション作品を発表。

 

ジェメオスが描いたマスクをかぶった市民の中に一人の兵士を描いたペインティングと、その逆のバージョンのペインティングのペアが発表された。この作品はアートワールドの批判として、また「ウォール街を占拠せよ」運動へのオマージュ的な意味があるという。

 

■10月21日『Ghetto 4 Life』

10月21日にバンクシーは再びサウスブロンクスを訪問し、壁に『Ghetto 4 Life』の文字をスプレーで描く子供の姿を描いた作品を発表。この作品は多くの住民を怒らせたにもかかわらず、すぐにファンの間で話題となった。

『Ghetto 4 Life』
『Ghetto 4 Life』

■10月22日『Everything but the kitchen sphinx』

10月22日にウィレッツ・ポイントの作業場に登場し、「Everything but the kitchen sphinx」と題されたスフィンクスの彫刻が設置され、すぐに熱心なバンクシーのファンが押し寄せた。

 

現場の労働者の関心を引き、労働者によればそれぞれのれんがが100ドルで売られて、トラックに積み込まれて持ち去られたという。

 

この作品の破滅的な運命は、HBOドキュメンタリー『Banksy Does New York』(2014年)で大きく取り上げられた。 作品は元の場所から持ち出され、ガレージに保管され、のちにアート・マイアミ・ニューヨークの現代アートフェアに登場した。

■10月23日「中止」

現在、ニューヨークで大暴れをしているバンクシーに対し、ニューヨークのブルームバーグ市長は記者会見で「他人の所有物や公共物にいたずらしたり汚したりする行為は、私に言わせれば芸術とは言えない」と不快感を表し、ニューヨーク市警察に対して、バンクシーが絵を描いているところを発見した場合には、すぐに摘発するよう指示を出したという。

 

そうした動きもあり、23日の作品は警察の動きより中止となったというメッセージがインスタグラムや公式サイトにアップされた。また、逮捕されたという噂もあった。

 

■AnonymousGuestbook

同日、レッドフック地区のビルの外壁に「Better Out Than In #AnonymousGuestbook」とキャプションが書かれた枠だけが描かれたキャンバスが描かれた。誰でも匿名で描けるものだった。オープン・キャンバスとう形のコラボレーション作品のアイデアは、2週間前にその地域コミュニティのアートディレクターからバンクシーに提示されたという。

 

しかし、これは正確にはバンクシーの作品ではなかった。多くの人が「匿名のゲストブック」がバンクシー自身によるものだと信じいてたが、後に匿名の「ゲストブック」という名前の下もとでグループの活動であったことを否定された。

■10月24日『Waiting in Vain』

『Waiting in Vain』は、この企画の第24番目の作品である。ヘルズ・キッチンにあるストリップクラブの外に設置されたこの作品には、タキシード姿の男性が花を持っている様子が描かれていた。クラブで働く芸能人たちがこの作品の前でポーズをとった後、オーナーはこの作品を荒らしに破壊される前にシャッターから慎重に取り外して保管することにした。この作品はクラブ内に常設展示される予定となっている。

『Waiting in Vain』
『Waiting in Vain』

■10月25日『死のダンス』

25番目の作品『死のダンス』は、その日らしくハロウィンをテーマにしたもので、バワリー地区に設置された。

 

精巧なライトショー、スモッグ装置の演出、またブルー・オイスター・カルトの「(Don't Fear) The Reaper」のミュージックとアコーディオンの生演奏とともに、大きな檻の中でバンパーカーに乗った死神がグルグル回転しながら運転しているというものである。

 

バンクシーがよく話している「芸術の役割は、私たちの死を呼び起こすことだ」という説明とともに、付属のオーディオガイドが自嘲的な解釈をファン提示した。また、長い間続けられているこのマウントされたアートショーに対して「とっくの前から我々は死んでいる」というような事を暗示した。

■10月27日『This site contains blocked messages』

10月27日の作品は、グリーンポイントにある壁に書かれたメッセージで「このサイトにはブロックされたメッセージが含まれてます」というものである。

 

それはバンクシーがニューヨーク・タイムズ紙に投稿した未発表のコラムに言及したものだった。物議をかもしたそのコラムは、ワン・ワールド・トレード・センターの建設を決定を批判したもので、バンクシーは対して「バニラ」で「まるでカナダに建っているような、ありきたりのビルだ」と表現したものだという。

参考:バンクシー、NYの新WTCビルをメッタ斬り!

 

9月11日の同時多発テロ事件への2回目の言及となるが、バンクシーによればワン・ワールド・トレード・センターはあの日命を落としたすべての人への裏切りであり、その無垢な姿はテロリストが勝利した証であると主張した。

■10月31日『BANKSY!』

1ヶ月に及ぶシリーズの最後の作品は、クイーンズのロングアイランド高速道路沿いのビルの壁に描かれた作品で、「BANKSY!」という風船で作られた文字とその下に白と黒の風船の集合体が螺旋状に結ぶように描かれていた

 

バンクシーは、自身のウェブサイト上でこの作品のキャプションとして「SAVE 5POINTZ」というメッセージを添えている。5POINTZとは、 ニューヨーク市都市計画局が最近マンション建設のために取り壊すことを決定したグラフィティ文化の中心地「5 Pointz(ファイブ・ポインツ)」のことを指している。

 

ファイブ・ポインツはの外観はストリート・アートで覆われており、建物は壁に描かれたアートで世界的に有名になっていた。この衝撃的な、グラフィティで埋め尽くされた倉庫がヒッピホップやR&Bのスターたちを引き寄せており、彼らのミュージック・ビデオの中に登場している。

 

2013年、開発事業者ジェリー・ウォルコフはファイブ・ポインツを解体して住宅団地に変える決定を下し、アーティストたちから抗議を受けた。しかし、何の警告もなく、2013年11月19日、ファイブ・ポインツのグラフィティは前夜のうちに白く塗りつぶされた。2014年に完全に解体された。2015年1月末にはこの敷地は完全に更地となった。

白と黒の風船の集合体と『BANKSY!』の文字
白と黒の風船の集合体と『BANKSY!』の文字
かつて存在したグラフィティ文化やヒップホップをはじめサブカルチャーの聖地「ファイブ・ポインツ」
かつて存在したグラフィティ文化やヒップホップをはじめサブカルチャーの聖地「ファイブ・ポインツ」
かつて存在したファイブ・ポイントの壁画。
かつて存在したファイブ・ポイントの壁画。

■参考文献

https://en.wikipedia.org/wiki/Better_Out_Than_In、2020年6月26日アクセス

https://qetic.jp/art-culture/banksy-betteroutthanin/105976/3/、2020年6月26日アクセス