『種まく人』は、ジャン＝フランソワ・ミレーが1850年に制作した油彩作品です。ミレーは『種まく人』とうタイトルのほぼ同じ絵を2点描いています。そのうちの1点は1917年からボストン美術館に所蔵されており、もう1点は甲府の山梨県立美術館に所蔵されています。

この作品は、広大な農地で一人で働く田舎の労働者を中心とした人間の姿を描くことに重点を置いています。肩に種袋をかけ、脚には寒さを防ぐための藁を巻きつけた農民が、夕暮れの丘を大股で下りながら冬小麦をまいている――ミレーが描いたのは、そんな雄大な姿でした。

その monumental（堂々とした）なスケールと劇的なポーズは、農民の生活を描くうえでの新たなアプローチを示しており、農作業に宿る尊厳、さらには英雄的とも言える精神性を強調しています。

1850年のパリ・サロンに出品された《種をまく人》は、ミレーに一夜にして名声をもたらしたのです。

• 農民を英雄のように描写
• 革新的な社会的リアリズム
• ミレーの名声を確立

ミレーは1849年に、パリから少し離れた場所にあるフォンテーヌブローの森にあるバルビゾンという村に移り住みました。

そこで彼は、バルビゾン派と呼ばれる芸術家グループの一員となり、バルビゾン派の画家たちは、従来のロマン主義的で劇的な風景画とは異なり、控えめで写実的な風景や主題を描きました。

農家の息子でもあったミレーは、農村で働く人々の生活を、尊厳と真摯さをもって描きました。その作品は時に感傷的と見なされることもありますが、当時は社会的リアリズムの観点から非常に革新的とされました。

素朴な労働者を大規模に描くことはパリの美術界では異例で、議論を引き起こしました。ミレー作品で描かれる「醜い」モチーフに対してしばしば疑問を投げかけられました。

この絵画は、冬と思われる季節に畑に種をまく農民の姿を描いています。画面上部には太陽が描かれており、夜明けの時刻であることが示されています。

農夫は典型的な農民の衣服を身にまとい、寒さをしのぐために脚に藁を巻き付け、長い歩幅で大地を進みながら、肩に種袋をかけ、右手で種をまいています。画面左には数羽のカラスが現れ、まかれた種をついばんでおり、画面右の遠景には、牛を使って土をならしている別の農民の姿が見えます。本作は、農民の力強さと勤勉な生活を理想化せずに描いた作品です

この絵は、農民の生活を理想化することなく、彼らの力強さと勤勉さを描き出しています。

『種をまく人』は、ミレーがバルビゾンで描いた最初の大作でした。同年中に、ほぼ同じ構図の第二作（山梨県立美術館所蔵）を描き、1850年のパリ・サロンに出品しました。この作品は大きな注目と批判を集めました。

評論家クレマン・ド・リスは「動きに満ちた力強い習作」と称賛しましたが、テオフィル・ゴーティエは「こて跡の寄せ集め」と酷評しました。

美術史家アンシア・カレンは、「ミレーは意図的に農民労働者の体格を引き伸ばすことで、筋肉質で巨大な人物像へと変貌させた。構図の中でこの農民が支配的な位置を占め、鑑賞者の視点が低いため、1850年当時のパリのブルジョワ階級にとっては、脅威として映ったのも無理はない」と述べています。

この種まき人の高貴さは、1848年のフランス革命後の男性農業労働者に対する選挙権付与を反映していました。19 世紀の鑑賞者にとって、ミレーの農民画は、素朴な土地そのものを呼喚起させました。

ミレーがこの「種をまく人」という主題を最初に描いたのは、1847〜48年頃で、現在この初期作はウェールズ国立美術館に所蔵されています。ウェールズ版では地平線が高く、農夫はそれほど巨大に描かれておらず、後年の作品よりも風景が大きく扱われています。

その後、ミレーはボストン版および甲府版の制作を経て、この主題に少なくとも三度は再び取り組みました。1850年以降に描かれた油彩画はピッツバーグのカーネギー美術館に、また1850年頃のパステル画はウィリアムズタウンのクラーク美術館に、1865年頃のもう一つのパステル画はボルチモアのウォルターズ美術館に所蔵されています。

ある評論家は、農民は「自分が蒔いた土で描かれているようだ」と述べたようです。この考えは特にフィンセント・ファン・ゴッホに影響を与え、彼はミレーを「多くの人に地平を開いた重要な現代画家」と考えていました。

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■参考文献

・https://en.wikipedia.org/wiki/The_Sower_(Millet)、2023年11月14日アクセス

・https://collections.mfa.org/objects/31601、2025年6月14日アクセス