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【作品解説】バンクシー「風船と少女」

風船と少女 / Girl with Balloon

最も人気の高いバンクシー作品シリーズ


※1:2002年にウォータールー橋に描かれた『風船少女』(2004年撮影)
※1:2002年にウォータールー橋に描かれた『風船少女』(2004年撮影)

バンクシー作品の代表作として知られる「風船と少女」。この作品が示す主題と、制作背景をお伝えします。また、作品の背景や制作過程についても詳しく説明します。そして、バンクシーの作品を徹底的に理解するためのヒントとなる情報を提供します。ぜひ本記事を読んで、バンクシーの作品をより深く理解してみてください。

目次

概要


作者 バンクシー
制作年 2002年〜
メディア 壁画、グラフィティ

『風船と少女』は2002年からバンクシーがはじめたステンシル・グラフィティ作品シリーズ。風で飛んでいく赤いハート型の風船に向かって手を伸ばしている少女を描いたものである。「風船少女」や「赤い風船に手を伸ばす少女」とよばれることもある。

 

初期の作品はロンドンのウォータールー橋やロンドン周辺のさまざまな壁に描かれたが、現在はどれも残っていない。

 

バンクシーは社会支援の手助けをするため、このデザインを何度か変えてさまざまな場所で描いている。2005年にはイスラエル西岸地区の分離壁に描いている。ほかに、2014年のシリア難民危機3周年時や、2017年のイギリス一般選挙時にも別バージョンが制作されている。

 

2017年のサムスンの調査で「風船と少女」シリーズは、イギリスで最も人気のあるバンクシー作品の1つであることがわかった。

 

2018年には、ロンドン・サザビーズのオークションに出品された額縁におさめられた風船少女の作品が、オークション中にバンクシーによって額縁にしかけられた機械によってズタズタに切り裂かれた。バンクシーは自身がシュレッダーにかけた責任を負うことに認め、切り裂かれた作品に対して『愛はごみ箱の中に』と名前を付けた。サザビーズは「美術史においてライブ・オークション中に作られた初の作品だ」と話した。

解説


「風船と少女」シリーズの歴史


最初のグラフィティ作品は、2002年にロンドン、サウス・バンクにあるウォータールー橋へのぼる階段に描かれた。ほかのさまざまな「風船と少女」の絵もロンドンの各地の壁に描かれたが、それらはすべて塗りつぶされ、現在は1つも残っていない。

 

2004年バージョンは、ショーデッチにあるイースト・ロンドン・ショップに描かれ、2007年にサザビーズで3万7200ポンドで落札され、2014年にSincuraグループによって取り除かれ、2015年9月19日に50万ポンドで売買された。

 

これまで、数種類の「風船と少女」の限定版プリント作品が定期的に制作されており、それらは時間の経過とともに価値が上昇している。たとえば、2003年には25点の限定サイン付きの「風船と少女」が制作されている。また、2004年と2005年にはサインなしのプリント版が600点とサイン入りのプリント版が150点が制作されている。

 

2015年11月には、サイン入り150点限定のプリント版の1つがオークションに出品され、5万6250ポンドで落札されている。この落札価格は当時、推定落札価格の2倍以上の価格だった。

 

2009年バージョンはイケアのフレームの厚紙裏材に直接スプレーで制作されている。

※2:この絵は2006年にロンドンで見かけた最後の「風船と少女」シリーズだが、2007年に塗りつぶされた。
※2:この絵は2006年にロンドンで見かけた最後の「風船と少女」シリーズだが、2007年に塗りつぶされた。

イスラエルの壁


2005年8月、イスラエル西岸地区の分離壁に描いたグラフィティ作品シリーズの一部に風船少女の作品が含まれていた。これは、風船の束のひもを掴んでいる少女が浮いて壁を越えようとしている絵で『風船討論』と呼ばれる作品である。

※3:イスラエル西岸地区に描かれた「風船と少女」
※3:イスラエル西岸地区に描かれた「風船と少女」

シリア戦争3周年キャンペーン


2014年3月、シリア紛争が3年を迎えバンクシーは、代表作「風船と少女」をモチーフにしたシリア内戦に対する反戦キャンペーンの作品を公開した。バンクシーはシリア難民を描いた絵にハッシュタグ「#WithSyria」を付け加えた。

 

この活動は、人権保護団体のアムネスティ・インターナショナルや、オックスファム・インターナショナル、国境なき記者団などが中心になって始めたもので、「WithSyria(シリアと共に)」という合い言葉のもと、平和を願うたくさんの人々が参加している。キャンペーン当時、バンクシーの公式にはこのようなメッセージが掲載された。 


2011年3月6日、シリアのダルアーの街で15人の子供たちが、逮捕された。彼らの罪状は、反体制的なグラフィティ(落書き)を描いたこと。子供たちは、逮捕されたのち、拷問された。逮捕に反対して勃発した市民運動は、国全体を巻き込む暴力へつながり、やがて、930万人もの人々の家や生活を奪う内戦へと発展した。(バンクシー公式サイトより)

また、キャンペーンサイトには以下のようなテキストが掲載された。

バンクシーの代表作である「赤い風船に手を伸ばす少女」は、希望の象徴である。赤い風船は、少女を空高く持ち上げ、焼けこげた建物や、銃弾の跡がのこる壁などのカオスから彼女を連れ去る

 

この反戦キャンペーンはネットを中心に世界中にムーブメントを巻き起こした。バンクシーの作品をベースとしたキャンペーン用のアニメーションも作られた。ナレーションにはイギリスの俳優イドリス・エルバ、音楽にはイギリスのロックバンド、エルボーが起用されている。

 

キャンペーン中、歌手のジャスティン・ビーバーは風船少女を基盤にしたタトゥーを入れ、インスタグラムにその写真を投稿した。

※4:「風船と少女」シリア版
※4:「風船と少女」シリア版
※5:ジャスティン・ビーバーの「風船と少女」のタトゥー
※5:ジャスティン・ビーバーの「風船と少女」のタトゥー

2017年イギリス普通選挙


イギリス普通選挙が開催される2017年6月上旬、バンクシーは、「風船と少女」の改良版としてユニオンジャック模様のハート型風船に手を伸ばす少女の作品を制作した。

 

この絵はバンクシーの公式サイトにアップされ、6月9日に限定プリントとして無料配布された。ただし、ブリストル・ノース・ウェスト、ブリストル・ウェスト、ノース・サマセット、ソーンベリー、キングスウッド、フィルトンに住む有権者のみ購入可能で、さらに保守党候補者への反対票を証明する写真を送らなければならなかった。

 

しかし、選挙管理委員会から選挙贈収賄法に違反するものであり、選挙に影響を与えるものみなされ警告を受け、2017年6月6日にこのキャンペーンを中止した。

※6:「風船と少女」ユニオンジャック模様版
※6:「風船と少女」ユニオンジャック模様版

2018年 サザビーズオークション事件


2018年10月5日、ロンドン・サザビーズのオークションに、2006年に限定制作された「風船と少女」の作品が、額縁におさめられた形で出品された。この作品は104万2000ポンドで落札された。オークションにおけるバンクシー作品では過去最高額となった。

 

しかし、落札終了を告げる木槌を鳴らした2秒後、作品が勝手に額の底から滑りおちはじめ、アラーム音とともに自動的に裁断され、その場にいたオークション参加者や関係者は叫び声をあげた。オークション中にバンクシーによって額縁にしかけられた機械によって、作品の下半分がズタズタに切り裂かれた。

 

その後、バンクシーはインスタグラムにオークションの掛け声と「消えてなくなった」の意味をかけたとみられる「Going、going、gone ...」というタイトルのシュレッダーで断裁された絵と驚いた様子の会場の様子をおさめた写真をアップした。

 

 

バンクシーは自身がシュレッダーにかけた責任を負うことに認め、切り裂かれた作品に対して『愛はごみ箱の中に』と名前を付けた。サザビーズは「美術史においてライブ・オークション中に作られた初の作品だ」と話した。

※7:『愛はごみ箱の中に』(2018年)
※7:『愛はごみ箱の中に』(2018年)