【画集解説】山本タカト「殉教者のためのディヴェルティメント」

殉教者のためのディヴェルティメント

2006年発売山本タカト第四画集


山本タカト『殉教者のためのディベルティメント』
山本タカト『殉教者のためのディベルティメント』

ゴスロリ少女が登場し、植物との融合が始まる


『殉教者のためのディヴェルティメント』は山本タカトの第四作品集。2006年にエディション・トレヴィルより発行(発売:河出書房)。

 

本書はこれまで刊行されてきた三作品に比べると、収録作品のカラーが大幅に変化しており、現在の山本タカトのイメージに近いものとなっている。少女耽美クリムトビアズリーゴスロリ球体関節人形グロテスクといった要素が好きな人におすすめの一冊である。

「サロメ」2005年
「サロメ」2005年

まず、これまでの作品の大半が青年画だったが、本書より少女画が中心となる。おそらく、当時ゴスロリブームだっためか「窓辺の少女」「闇夜のセエナアデ」、そして黒色すみれのファースト・アルバムのジャケット画である「ぜんまい少女箱人形」など、ゴスロリ衣装に身を包んだ少女作品が多数収録されている。また人物の周囲に配置されるオブジェもゴスロリ文化を意識したものに変わっており、テディ・ベアや赤い靴、リボン、球体関節人形のパーツなどが描かれている。

「ぜんまい少女箱人形」2004年。モデルは黒色すみれのさちとゆか。
「ぜんまい少女箱人形」2004年。モデルは黒色すみれのさちとゆか。
「闇夜のセレナアデ」(2005年)
「闇夜のセレナアデ」(2005年)

次に、これまでの山本タカト作品は、人物画だけでなく日本家屋やベッドルーム、森などの背景画も重要な要素だったが、本書より背景はブラック一色と満月が中心となり人物画がクローズアップなされる。


ただ人物画は、通常の人物画ではなく、植物と内臓に類似性を見出し、それらをダブルイメージ的にグロテスクに描いたシュルレアリスム様式になっている。人間のパーツとして認識できる部分は首だけとなっている作品が多い。クリムトやビアズリー、エルンストから影響を受けているであろう構図も多数見られる。

「おまえに接吻するよ、ヨカナーン」2005年
「おまえに接吻するよ、ヨカナーン」2005年
「スフィンクス」2004年
「スフィンクス」2004年

ほかには「天草四郎時貞、島原之乱合戦之図」や「聖セバスチャン」などの青年耽美画もいくつか収録されている。