マルセル・デュシャンの作品一覧
20世紀美術の概念を覆し、芸術のあり方そのものに問いを投げかけたマルセル・デュシャン。彼の作品は、単なる視覚的な美しさではなく、「芸術とは何か?」という根源的な問いを私たちに突きつけます。本ページでは、代表作『泉』『大ガラス』『L.H.O.O.Q.』をはじめ、デュシャンの創造の軌跡を一覧できます。ラディカルで知的なユーモアに満ちた彼の仕事を、ぜひご堪能ください。

マルセル・デュシャンのプロフィール
マルセル・デュシャン(1887-1968)は、20世紀の美術に革命をもたらしたフランス生まれの芸術家であり、後にアメリカに帰化しました。絵画、彫刻、さらにはチェスにも情熱を注いだ彼の活動は、従来の芸術概念を覆し、「観念の芸術」という新たな地平を切り開きました。
彼はダダイスムやシュルレアリスムと深く関わりながらも、特定のグループには属さず、独自の芸術哲学を追求しました。「芸術とは何か?」という問いを根幹に据え、目の快楽に訴える「網膜的絵画」を批判し、思考を刺激する芸術の創造を目指したのです。
代表作『泉』では、既製品の便器を美術館に展示することで、アートの定義そのものを問い直しました。また、『階段を降りる裸体 No.2』では、キュビスムや未来派の影響を受けながら、視覚的な美よりも「言葉」が生み出す知的刺激を重視しました。
デュシャンの革新は、レディ・メイドやコンセプチュアル・アートの礎を築き、現代美術に計り知れない影響を与えました。パブロ・ピカソ、アンリ・マティスと並ぶ20世紀の最重要アーティストの一人として、今なお世界のアートシーンにその思想は生き続けています。
代表作

『泉』は1917年に制作されたレディ・メイド作品。近代美術から現代美術、ヨーロッパ近代芸術からアメリカ現代美術、視覚的な芸術から観念的な芸術へと価値観が移行するターニングポイントとなる作品です。(続きを読む)

『階段を降りる裸体No.2』は、1912年に制作された油彩作品。本作はパブロ・ピカソの『アヴィニョンの娘たち』と並んで、最も近代美術を代表する作品の1つと広くみなされています。(続きを読む)

『彼女の独身者によって裸にされた花嫁、さえも』(通称:大ガラス)は、1915年から1923年の8年の制作期間にわたって制作されたオブジェ作品。この作品は、鉛の箔、ヒューズ線、埃などの素材と2つのガラスパネルを使って制作されたものであり、偶然の要素、透視図法、緻密な職人的な技術や物理学、言語学的な要素が集約された非常に複雑な作品です。(続きを読む)

『1.水の落下、2.照明用ガス、が与えられたとせよ』、通称『遺作』。1946年から66年まで、ニューヨークの14番ストリートのアトリエでひそかにつくりつづけ、フィラデルフィア美術館に寄贈する旨の遺言を残したまま亡くなり、死後、公開されました。(続きを読む)

『ローズ・セラヴィ、何故くしゃみをしない?』は、1921年に制作されたレディ・メイド作品。修正レディメイドの1つ。デュシャンのコレクターであるキャサリン・ドライヤーによる依頼で、彼女の妹のプレゼント用に制作されました。(続きを読む)

『グリーンボックス』は1934年にマルセル・デュシャンによって制作されたメモ集作品。緑色のスウェードを貼った1つの箱の中に、1923年の作品『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』(大ガラス)の制作に関係するスケッチ、メモ類、写真などが整理されず、綴じられずに、ばらばらに保存された形式となっています。(続きを読む)

『アネミックシネマ』は1926年に制作された実験映像。マン・レイが撮影協力をしている。『ロトレリーフ』と呼ばれるデュシャンのドローイング作品を回転させたアニメーションで、10枚の「螺旋のある円盤」と9枚の「地口を書いた円盤」が、交互にひとつずつゆっくり回転しながら映しだされます。(続きを読む)

『L.H.O.O.Q』は1919年に制作された修正レディ・メイド作品。レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の安物のポストカードに鉛筆で口髭と顎鬚を付け加えています。(続きを読む)

『なりたての未亡人』は1920年に制作されたオブジェ作品。フランス窓のミニチュアで、ペンキ塗りの木枠に8枚の黒い革がはめられています。デュシャンの扉・窓系作品の代表的なもの。(続きを読む)

『ホワイト・ボックス』は1967年に制作されたオブジェ作品。79枚のメモを白いプレキシグラスの箱におさめたもの。ケースの表面には、『大ガラス』の水車の部分がシルク・スクリーンで刷られています。(続きを読む)

《トランクの箱》は1941年にマルセル・デュシャンによって制作され、出版された複製芸術作品。《大ガラス》をはじめデュシャンのさまざまな作品のミニチュア・レプリカ、写真、複製をおさめた革製のトランク。(続きを読む)

『裸体、汽車上の 悲しげな青年』は、1911年から1912年にかけて制作された油彩作品。デュシャンのセルフ・ポートレイト作品であり、1912年に発表した『階段を降りる裸体 No.2』の試験的作品。(続きを読む)

『花嫁』は1912年にマルセル・デュシャンによって制作された油彩作品。ミュンヘンに2ヶ月間滞在していた時期に描かれた作品群『処女 No.1』『処女 No.2』『処女から花嫁への移行』『花嫁』『飛行機』の1つに当たります。(続きを読む)

『折れた腕の前に』は1915年のレディ・メイド作品。「レディ・メイド」という名称で呼ばれた最初のオブジェ。1915年にニューヨークにいたデュシャンは金物屋で雪掻きシャベルを買い求め、その上に『折れた腕の前に』と書きました。(続きを読む)
年代別
・画家の父親の肖像,1910年
・デュモシェル博士の肖像,1910年
・ブッシュ,1910-1911年
・ほどよい時期の小さい妹,1911年
・春の青年と少女,1911年
・ソナタ,1911年
・裸体、汽車上の 悲しげな青年,1911-1912年
・コーヒー挽き,1911年
・処女から花嫁への移行,1912年
・花嫁,1912年
・階段を降りる裸体 No.2,1912年
・チョコレート磨砕器,1913年
・自転車の車輪,1913年
・3つの停止原理,1913年
・ボトルラック,1914年
・折れた腕の前に,1915年
・彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも,1915-1923年
・泉,1917年
・Tu m',1918年
・L.H.O.O.Q,1919年
・なりたての未亡人,1920年
・美しい息、ヴェールの水,1920-1921年
・ローズ・セラヴィ、何故くしゃみをしない?,1921年
・アネミックシネマ,1926年
・グリーン・ボックス,1934年
・トランクの箱,1941年
・プロフィール用の自画像,1958年
・1.水の落下、2.照明用ガス、が与えられたとせよ,1944-1966年
・ホワイトボックス,1967年
デュシャンの生涯から作品を考える

マルセル・デュシャン(1887-1968)は、既成の芸術観を揺るがし、新たな表現の可能性を切り開いた革新者でした。彼の生涯をたどることは、単なる作品の理解にとどまらず、「芸術とは何か?」という根源的な問いに向き合うことでもあります。
本ページでは、デュシャンの人生の転機や思想とともに、《泉》や《大ガラス》などの代表作を考察します。なぜ彼は絵画を捨て、レディ・メイドに行き着いたのか? 彼の芸術哲学はどのように形成され、現代美術に何をもたらしたのか?
デュシャンの軌跡をたどりながら、その作品の本質に迫ります。