【作品解説】マルセル・デュシャン「ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?」

ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない? / Why Not Sneeze Rrose Sélavy?

この小さな鳥篭は角砂糖で一杯だ…


マルセル・デュシャン《ローズセラヴィ、何故くしゃみをしない?》(1921年)
マルセル・デュシャン《ローズセラヴィ、何故くしゃみをしない?》(1921年)

概要


作者 マルセル・デュシャン
制作年 1921年
メディウム 修正レディ・メイド(鳥かご、大理石、温度計、イカの甲など)
サイズ 11.4 x 22 x 16 cm
コレクション フィラデルフィア美術館

《ローズ・セラヴィ、何故くしゃみをしない?》は、1921年にマルセル・デュシャンによって制作されたレディ・メイド作品。修正レディメイドの1つ。デュシャンのコレクターであるキャサリン・ドライヤーによる依頼で、彼女の妹のプレゼント用に制作された。フィラデルフィア美術館所蔵。1963年と1964年にレプリカが制作されている。

 

角砂糖のようなたくさんの大理石の立方体、温度計、そしてイカの甲が、手ごろな大きさの古い長方形の鳥篭の中に詰まっている。この作品に残されたデュシャンのサインはデュシャンの女装用のペンネーム「ローズ・セラヴィ」(Rose Selavy)。それが《ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?》である。

 

デュシャン自身は、次のような解説を残している。

 

「この小さな鳥篭は角砂糖で一杯だ…しかし角砂糖は大理石でできていて、鳥篭を持ち上げた時には予測できなかった重さに驚かされる。温度計は大理石の温度を示すためのものだ。」

 

詳細な解説は残されていないが、さまざまな憶測がされている。たとえば、制作依頼者であるキャサリン・ドライヤーはキュビズムのパトロンとして有名だった。そのため、大理石の立方体はキュビズム=ヨーロッパ芸術=キャサリン・ドライヤーの好みのことを指しているという。また、152個の大理石には「Made in France」の刻印が押してあるが、152とは英知的な意味があるという。

 

ずっしりと重い大理石は、同時に角砂糖にも見え甘そうである。その甘さは快楽や女性を暗示し、また女性とは、女装したローズ・セラヴィであり、デュシャン自身のことでもある。

 

そして鳥篭から半分はみだしたイカの甲は大理石と同じ石灰質。しかし鳥篭から脱出しようとしているところから、角砂糖と似て非なるものであることを主張している。そのイカの甲はたデュシャン自身でもある。

 

つまり、ヨーロッパ美術の世界からニューヨークの新しい美術の世界へ脱出しようとしているデュシャン自身を表現した作品だとされている。

 

また、イカの甲はフランス語では「Os de Seiche」で、甲=「Os」は発音は[O]であり、[O]はゼロともいえる。温度計には普通、摂氏と華氏の目盛りが付いているが、摂氏0度とは華氏32度。0度か32度か分からない、評価(温度)の分からない私はくしゃみができない。

 

くしゃみをするという観念とくしゃみをしない?という観念との間には、はっきりした隔たりがある。なぜなら、人は結局のところ、自分の意思でくしゃみをすることはできないからである。くしゃみという行為は、たいてい意に反して勝手にしてしまうものである。

 

ローズ・セラヴィ(マルセル・デュシャン)は、ヨーロッパで不遇扱いされている。この鳥篭から飛び出しニューヨークへ向かうことかもしれない。

 

この作品は300ドルでキャサリン・ドライヤーの妹に販売したが、彼女はこの作品が気にいらず姉のキャサリンに転売する。キャサリンも短い間しか所有せず、同じ値段でアレンズバーグに譲った。


■参考文献

Why Not Sneeeze, Rrose Selavy?

・マルセル・デュシャン展 高輪美術館 西武美術館