かたつむり / The Snail
螺旋と色彩が織りなす近現代美術の奇跡

カタツムリの殻を思わせる螺旋状の形――そこにマティスの色彩の魔法が宿ります。補色が響き合い、赤と緑、青と黄が躍動するこの作品は、見る者の心を掴んで離しません。カタツムリという自然の形態から生まれた抽象表現、その背後にはマティスの大胆な挑戦と独創的な発想がありました。
概要
作者 | アンリ・マティス |
制作年 | 1952-53年 |
メディウム | ガッシュ絵具で着色した紙 |
サイズ | 287 cm× 288 cm |
コレクション | テート・モダン |
『かたつむり』は、マティスの晩年期に制作した代表的なカットアウト作品の一つで、マティスの作品で最も重要な作品、かつ代表作と評価されています。
1952年から1953年にかけて制作されたもので、ガッシュ絵具で着色した紙を図形に切り抜き、白地のキャンバスに貼り付けています。補色を意識して並べて配置し、鮮やかな効果を生み出しました。サイズは287cmのほぼ正方形で、一般的な鑑賞者の背丈の2倍はあるため、その大きさに圧倒されます。

「かたつむり」というタイトルが示すように、着色されたさまざまな色付きの図形がかたつむりの殻を表現するように螺旋状に配置されています。
この頃、マティスはカタツムリの絵をたくさん描いており、このカットアウト作品はカタツムリのドローイングから湧き出してきたものだと語っています。最初は、かたつむりの形態を直接描いていましたが、その後、色付きの紙を使ってカットアウト手法で抽象的に描くことにしました。
別名「色彩構成」と呼ばれる補色を意識した作品
この作品の最大の特徴は、色彩の構成にあります。マティスは、補色関係に注意を払い、隣り合う色が反対色になるように配置することで、作品に深みを与えています。
たとえば緑の隣に赤が置かれ、青の隣に黄が置かれていました。マティスはこの作品を別名「色彩構成」と呼んでいました。まるで虹のように美しく、見る人を魅了してやまない構成になっています。

マティスの人生が集約された作品
1940年代初頭から中ごろにかけて、マティスの容態は悪くなって筆を持って絵の制作はできなくなっていました。そうした環境でベッド上で手軽にできる制作として始めたのがカットアウト作品でした。
マティスはこの作品で、自分のアーティストとしての軌跡をかたつむりのように表現しています。「まず、私は自然の中でカタツムリを手に取り、それを観察しながら描きました。その過程で、巻き貝がほどけていくような感覚を覚え、心の中に殻を取り去った純化されたイメージが浮かびました。そして、そのイメージに基づいてハサミを手に取り、制作を始めたのです。」とマティスは助手に制作経緯を話しています。
この言葉に、マティスのキャリア全体が詩的に集約されています。マティスはまず、自然をモチーフにした具象画を描いてキャリアをスタートさせました。色彩のダイナミックな抽象性を追求するうちに、自然を模倣することができなくなりました。さらに、作品を単純化し、純粋なイメージに落とし込んでいきます。
車いす生活後は、アシスタントに使用したい正確な色を指示し、アシスタントはそれらの色で紙をガッシュで塗りました。自分では描かず「方法」「媒体」「素材」を重視した作品は、アンディ・ウォーホルや村上隆などの現代美術の完全な先駆けでした。
さらに、『かたつむり』は、かたつむりの殻に描かれた螺旋模様が、マティスの言う「アンロール」であり、初期の抽象芸術でよく使われた黄金比を参照していることから、特に深いモダニズムの表現とみなされています。