【美術解説】ロマン主義「個人の感情や主観を重要視した芸術運動の祖」

ロマン主義 / Romanticism

個人の感情や主観を重要視した芸術運動の祖


ウジェーヌ・ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》1830年
ウジェーヌ・ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》1830年

概要


ロマン主義は18世紀末にヨーロッパで生まれた芸術運動。視覚芸術のみならず、文学、音楽などあらゆる表現で見られた知的運動である。運動のピークは多くの地域で1800年から1850年とされている。

 

ロマン主義は、過去や自然への賛美、また個人の感情や主観に重点を置いて表現しているのが最大の特徴である。「不安」「恐怖」「畏怖」、特に「自然に対する感動や畏怖」といった、これまで表現が抑制されていた人間の感情が発露されている。

 

ロマン主義に属する画家としては、自身の内に眠る暗い感情を表現したスペインのフランシス・デ・ゴヤ、観るものを圧倒する情熱と激情的な筆使いのフランスのウジェーヌ・ドラクロワ、自然災害の恐怖を描いたイギリスのジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーなどが代表的な画家である。

 

そのほかに、有名なロマン主義作家としては、テオドール・ジェリコー、ギュスターヴ・ドレ、ウィリアム・ブレイク、サミュエル・パーマー、リチャード・ダッド、フランチェスコ・アイエツ、ヨハン・ハインリヒ・フュースリー、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ、フィリップ・オットー・ルンゲ、ノルウェーのヨハン・クリスチャン・ダールなどが挙げられる。

 

また、産業革命の進行による科学的合理主義や理性主義への反発がある。ロマン主義はこれまでの貴族的な社会・政治規範の反発として生まれた。近代社会のあらゆる要素を源として発生しているのがロマン主義の特徴である。

 

ロマン主義は、古典主義(フランス古典主義)よりも中世への憧憬といった世界観を好むこともある。中世への憧憬は、民族芸術や古代における習慣の賛美にまで高められ、それは、近代国民国家形成を促進することになった。

 

運動のルーツはドイツのシュトゥルム・ウント・ドラングである。18世紀後半にドイツで見られた革新的な文学運動で、ドイツの劇作家であるフリードリヒ・マクシミリアン・クリンガーが1776年に書いた同名の戯曲に由来している。古典主義や啓蒙主義に異議を唱え、理性に対する感情の優越を主張し、またフランス革命とその思想に類似しており、ロマン主義へとつながっていった。

 

ロマン主義は、”英雄的”な個人主義者や芸術家の業績に大きな価値を与えた。それはまた、個々の想像力をこれまでの美術における古典的で形式主義的な観念から自由にすることができる大きな権限を与えた。

 

なお、19世紀後半にはロマン主義の反動として、のちに同時代の現実社会を率直に描写する写実主義や自然主義が生まれた。また、ロマン主義は、社会的、政治的な変化やナショナリズムの広まりなど、複数の要因が連結して衰退した。

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