プロテスト・アート / Protest art
政治メッセージ性が強い抗議芸術
概要
プロテスト・アートは活動家や社会運動によって生成された芸術。社会や政治の状況の情報を市民に伝え、ネットワークを作り、何を行動するべきか市民に呼びかける、費用対効果の高い活動をするための重要な手段である。
体制側のプロパガンダ・アートとことなり、おもにデモ活動に参加する抗議者が集会を宣伝したり、ときには警察や政府に対して反体制的なメッセージを投げかける役割を果たす。参加者の感情を喚起するのに役立ち、緊張を高め、抗議活動への新たな機会を作り出す。
2020年10月、ニューヨーク・タイムズはBLM運動と連携した『ロバート・E・リー記念碑の改ざん』を戦後アメリカで最も影響力のあるプロテスト・アートとして評価した。
プロテスト・アートは、また、最近の出来事を風刺的に表現することで、緊張を緩め、明るくコメディのような安堵感を与えることもある。さらに、抗議者の間の結束を示し、仲間の活動家を励まし、精神衛生上の意識を高める。
パフォーマンス、インスタレーション、グラフィティ、ストリート・アートなど表現手法は多岐にわたる。資金力の少ないグループや政党は、コストを抑えた手頃な戦術としてこれらの手法を利用することが多い。
プロテスト・アートは、その携帯性と使い捨て性を特徴とするはかないものであり、また、誰か特定の人間によって作成されたものでも所有物でもない。「平和のシンボル」と「掲げた拳」は民主的な所有権を強調する2つの代表的な例である。
プロテスト・アートに参加するためには、美術教育を習得したり美術に関する幅広い知識は必要ではない。その一方、より多くの観客に宣伝するために、美術界の機関や商業的なギャラリー・システムを利用することも多い。
パブロ・ピカソの『ゲルニカ』は政治的メッセージの強いプロテスト・アートとして見られることもある。
重要ポイント
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おもなプロテスト・アート
コレクション
政治グラフィック研究センターは、現在85,000枚以上のポスターを収録しており、第二次世界大戦後の社会正義ポスターのコレクションとしては米国最大、世界第二位の規模を誇っている。
多くの大学図書館には、ミシガン大学のJoseph A. Labadieコレクションをはじめとする広範なコレクションがあり、19世紀から現在に至るまでの社会的抗議運動や疎外された政治的コミュニティの歴史を記録している。
歴史
プロテスト・アートは、歴史の中で様々なバリエーションが見られるため体系化するのは難しい。ベルリン・ダダ、草間彌生のハプニングなどにプロテスト・アートの原型が見られる。
ピカソの『ゲルニカ』(1937年)のように、1900年代初頭のプロテスト・アートの事例が多く見られるが、ここ30年は、プロテスト・アートを大衆にメッセージを伝えるスタイルとして採用するアーティストが大幅に増加している。
ノーマン・カールバーグのベトナム戦争時代の作品、スーザン・クリールのアブ・グライブでの拷問のイメージなど、政治的な背景を持った芸術家の手による美術品がたくさんある。
世界各地で社会的正義への意識が一般の人々に浸透したことで、プロテスト・アートの増加が見られる。近年の最も批判的に効果的な作品の中には、美術館から離れたギャラリーの外で上演されたものもあり、その意味では、プロテスト・アートは大衆とは異なる関係性を見出してきたといえる。
レジスタンス・アート
レジスタンス・アートとは、権力者への反対を示す方法をとして利用されるアートである。これには、ドイツのナチス党や南アフリカのアパルトヘイトに反対する芸術が含まれる。
ウィリー・ベスターは、元々はレジスタンス・アーティストとしてスタートした南アフリカで最も有名なアーティストの一人である。
ベスターは、ゴミから集めた素材を使って、表面にレリーフを作り、その上に油絵の具で絵を描く。ベスターの作品は、南アフリカの黒人の重要な人物や、彼のコミュニティにとって重要な側面を代弁している。
ほかに、ジェーン・アレクサンダーは、白人の視点からアパルトヘイトの残虐行為を扱ってきた。彼女のレジスタンス・アートは、アパルトヘイト後の南アフリカで続く不健全な社会を扱っている。
アクティビスト・アート
プロテスト・アートは歴史の中で様々な形態が見られる。権力者に代表される伝統的な文化の境界やヒエラルキーに挑戦しようとした美的、社会的、政治的、技術的な改革性を内包する。
プロテスト・アートと同様にアクティヴィスト・アートは、アートをより多くの観客と結びつけ、疎外された人々や権利を奪われた人々が見聞きすることができる空間を開くことを求める声から生まれた。
アクティビスト・アートは、特定の芸術的・政治的風土に由来するものである。アートの世界で、1960年代後半から70年代にかけてのパフォーマンス・アートは、視覚芸術と伝統的な演劇の間の美的境界線を広げ、両者の間の硬直的な区別を曖昧にした。
また、アクティビスト・アートは、社会政治的な問題に対処し、社会変革をもたらす手段としてコミュニティや市民の参加を促すために、公共空間を利用する。それは、対話への参加を促進し、意識を高め、個人やコミュニティに力を与えるために働く能動的なプロセスに関与することによって、社会の変化に影響を与えることを目的としている。
一方、プロテスト・アートは、政治的または社会的な問題に取り組むという行為に基づいた創造的な作品である。プロテスト・アートは、すべての社会経済階級が利用できるメディアであり、機会構造を拡大するための革新的なツールである。
社会運動が、代替的な政治的・文化的価値観の「繰り返し行われるもの」と理解されるならば、アクティビスト・アートは、そのような代替的な政治的文化的主張をアート化する上で重要な意味を持つ。
アクティビスト・アートは、文化の次元や、社会変革の運動や行為における政治的、経済的、社会的な力と並んでその重要性を理解する上でも重要である。また、アクティビスト・アートを政治的な芸術と混同してしまうと、方法論、戦略、活動家の目標の決定的な違いが見えなくなってしまうので注意が必要である。
フェミニズム・アート
フェミニズムや当時のフェミニズム・アートの新興形態は、特にアクティビスト・アートに影響を与えた。
「個人的なものが政治的なものである」という考え、つまり芸術を通じた個人的な啓示が政治的な道具となりうるという考えは、私的な経験を公共的な側面から研究するアクティビスト・アートの多くを導いてきた。
フェミニストのアーティストが展開した戦略は、アクティヴィスト・アートで活動するアーティストが展開した戦略と平行している。このような戦略は、しばしば「コラボレーション、対話、美的・社会的前提への絶え間ない問いかけ、観客への新たな敬意」を含み、自己表現、エンパワーメント、コミュニティ・アイデンティティの問題を明確にし、交渉するために使われている。
香港プロテスト・アート
香港プロテスト・アートにおいておもに利用される手法はポスターである。絵画や壁画と異なりポスターは、市民が抗議活動に参加せずに自分たちの意見を表現するための平和的で代替的な方法とみなされている。
特に、香港の抗議活動のような匿名性が高くリーダー不在のプロテストとポスターの相性がよい。香港のプロテスト・アートのほとんどのアーティストは匿名のままか、運動のリーダー不在の性質に合わせてペンネームを利用している。
香港プロテスト・アートのデザインのアイデアは、LIHKGという掲示板上で不特定多数の人のアイデアから作り出されたものである。作成されたイメージは街中に設置されたレノンウォールやTelegramのチャンネル、AppleのAirDrop機能などを利用して広く配布される。
日本のアニメの芸術スタイルを採用していることが多いが、ほかにもさまざまなポップカルチャーメディアから影響を受けて制作されている。
香港バプテスト大学の学生組合の会長が警察に「レーザー銃」とみなされレーザーポインターを所持して逮捕されたとき、抗議者たちは「スター・ウォーズ」のライトセーバーの要素を取り込んだポスターを作成した。
ダン・バレット氏は、抗議者たちはディストピア的なテーマや反権威主義的なテーマをデザインに取り入れていると指摘している。
彼によると、「(ヒーローやヒロインが)乗り越えられないほどの困難にもかかわらず、悪の全体主義的な政権や支配者を打ち負かすことを描いたジャンルは、抗議運動の最前線にいる若い世代の香港人の間で特にモチベーションを高めているようだ」という。
また、多くのプロテスト・アートのデザインは、アルバムのカバーやハリウッド映画のポスターと似ている。
黄色のレインコートを着た男性(マルコ・レオンに似ている)、目から血が出ている女性(8月11日に女性抗議者の目が豆袋の丸で傷つけられたとされる事件を示唆している)、9月15日のノースポイント紛争で逮捕された抗議者のチャン・イーチュンなど、抗議活動に関わった著名な人物がプロテスト・アートによく登場する。
■参考文献
・https://en.wikipedia.org/wiki/Protest_art、2020年5月25日アクセス