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【作品解説】ルネ・マグリット「貫かれた時間」

貫かれた時間 / Time Transfixed

機関車と暖炉とトンネルの驚異の並列


ルネ・マグリット「貫かれた時間」(1938年)
ルネ・マグリット「貫かれた時間」(1938年)

概要


作者 ルネ・マグリット
制作年 1938年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 1.47 m x 99 cm
コレクション シカゴ美術館

《貫かれた時間》は、1938年にルネ・マグリットによって制作された油彩作品。現在、シカゴ美術館が作品を所蔵しており、20世紀以降の美術を収集するモダン・ウイング館で常設展示されている。

 

中央に描かれているのは暖炉から蒸気を吹き上げながら出てくる機関車である。機関車のモデルはロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道4-6-0だといわれる。マントルピースの上に時計とろうそく台と鏡が設置されている。鏡には時計とろうそく台が写っているが部屋に人影は見えない。

 

この作品についてマグリットはこのようなコメントをしている。

 

「私は機関車のイメージを描こうと思った。謎めいた感覚を呼び起こすために、謎めきとはまったく無縁そうな機関車とよく似た性質のモチーフ、ダイニングルームにある暖炉を並列して描いた。また暖炉の通気孔の部分に電車を置いたのは、鉄道トンネルから出てくるような場面に思えるからだ。」

 

マグリットによれば、蒸気機関車と石炭燃焼暖炉とトンネルを似たような性質なものとして、イメージを並列しているという。

 

機関車と石炭燃焼暖炉という“驚異の並列”や互いにまったく無関係なオブジェを並列して緻密な描くことで鑑賞を困惑させ、また同時に魅力を発する表現はデペイズマンと呼ばれるもので、マグリットの18番的な表現スタイルで、マグリットのデペイズマン作品の中でも代表的なものである。

 

マグリットは、この頃、ジョルジョ・デ・キリコのデペイズマン表現にかなり影響を受けており、そのためキリコがよく使う時計や機関車というモチーフを取り入れているのだろう。

ルネ・マグリット「リスニング・ルーム」
ルネ・マグリット「リスニング・ルーム」
ジョルジョ・デ・キリコ「愛の歌」
ジョルジョ・デ・キリコ「愛の歌」
ルネ・マグリット「選択的親和力」
ルネ・マグリット「選択的親和力」

エドワード・ジェームズの注文


この作品は、マグリットのパトロンだったエドワード・ジェームズの自宅の客室に飾るための絵として制作された二番目の作品である。ちなみに最初の作品は《自由の扉で》である。

 

「貫かれた時間」はジェームズがメキシコシティにシュルレアリスム彫刻庭園「ラス・ポサス」を建てる際に、資金調達目的で1970年にシカゴ美術館に売却された。

 

本作のタイトルはフランス語で「La Durée poignardé」だが、英語に翻訳されるときに「Time Transfixed」となり、マグリットは困惑している。フランス語の意味としては「ongoing time stabbed by a dagger(短剣で刺された現在進行の時間)」だからだ。

 

マグリットはジェームズに対して、この絵を客室に上がる階段の一番下にかけてもらうことを希望していたが、皮肉にもジェームズは客室の暖炉の上に飾っていたという。