【美術解説】マルセル・デュシャン「レディ・メイド」

マルセル・デュシャン「レディ・メイド」

「選択」して「アート」として提示したオブジェ


「レディ・メイド」はデュシャンが「選択」して「アート」として提示したオブジェ作品のことである。1913年、デュシャンはアトリエで《自転車の車輪》をオブジェとして飾っていた。しかし、レディ・メイドのアイデアは1915年までは発展しなかった。

 

デュシャンの署名が入った作品《ボトルラック》(1914年)が、最初の純粋レディメイド作品だと見なされている。その後、雪かきシャベルを利用したレディ・メイド作品《折れた腕の前に》(1915年)が続く。

 

レディ・メイドの意図はいくつかある。1つは視覚的に「無関心」なオブジェを選択することである。デュシャンのこのアイデアは芸術の概念や芸術の崇拝に対して疑うもので、そうしてデュシャンは「無関心」に美を発見した。美しくてもグロテスクでもダメなのである。

 

「レディ・メイドとして選択されるオブジェのポイントは、私にとって視覚的に魅力的でないオブジェを選ぶことでした。それは醜くもありません。選択するオブジェ対象は、「見かけ」が私にとって無関心であることでした。(マルセル・デュシャン)」

 

レディ・メイドの2つ目の意図は「美術の真の作者は鑑賞者」である。《泉》は「R.Mutt」というペンネームが署名された便器のレディ・メイド作品で、1917年にアートワールドに衝撃を与えた。デュシャンが《泉》で提示したことを簡単に説明すると「便器を日常の文脈から引き離して、美術という文脈にそれを持ち込んで作品化したこと」と言われている。デュシャンが攻撃した伝統的な制度とは、作者が自分の思想や観念を作品の形にし、鑑賞者は作品を通じて、作者の意図や思想や観念を自分の中で再現するというものである。

 

「美術の作者は美術家」であって、鑑賞者は美術家の意図を理解するという常識、そういった美術の古典的なルールに疑問をもったデュシャンは、大量生産された何の思想もメッセージも込められていない便器を美術展に投入した。すると本来メッセージも視覚的に面白くもないはずの便器が、鑑賞者を誤読させ、解読が始まり、それについて語られ美術化されていく。そのため、デュシャンは、R. Mutt(リチャード・マット)という偽名を使って、作者の意図が分からないようにしていた。

 

《泉》は2004年に、500人の有名なアーティストや美術史家によって「20世紀美術で最も影響を与えた作品」として選ばれた。

 

1919年には、デュシャンは口ひげと顎ひげを付けたモナリザの安ものの絵葉書作品を制作。この作品に対してデュシャンは《L.H.O.O.Q》という表題を付けた。この文字をフランス語でひとつずつ大きな声で読むと「あの女はさかりがついている」と読め、絵画の女性が性的興奮状態にあることを暗示しているか、フロイト思想的なジョークであるともいえる。