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【作品解説】バンクシー「偉大な英国の噴霧」

偉大な英国の噴霧 / A Great British Spraycation

政府が促すステイケーションに風刺を


グレート・ヤーマスで描かれた作品の1つ。
グレート・ヤーマスで描かれた作品の1つ。

概要


作者 バンクシー
制作年 2021年
場所 英国イースト・アングリア地方
スタイル ストリート・アート

「偉大な英国の噴霧」という作品シリーズは、2021年8月にバンクシーがイギリスのイースト・アングリア地方の様々な海岸都市に描いたストリート・アート作品です。

 

この作品シリーズは、イギリスの観光業が新型コロナウイルスの影響で打撃を受けていた時期に、政府が促した「ステイケーション」という旅行スタイルに対して独特の皮肉や風刺が込められています。

 

「ステイケーション」とは、新型コロナウイルスの影響で海外旅行に制限が課せられ、遠くに旅行に行くのではなく、近場のホテルで休暇を過ごすという旅行のスタイルのことです。

 

この作品シリーズは、グレート・ヤーマス、オルトン・ブロード、ローストフト、ゴールストン・オン・シー、クロマー、キングス・リンなどの町に描かれました。

 

偶然またはおそらく意図的に、バンクシーが向かった3つの都市、グレート・ヤーマス、ゴーレストン、ローストフトは、2025年に次の英国文化都市になることを目指して競い合っています。この作品が描かれたことで、これらの都市が注目を集め、文化都市としての認知度が高まったことは確かでしょう。

 

最初はこの作品が本物かどうか疑われましたが、バンクシーのインスタグラム・アカウントに投稿された3分間のビデオから、作品が本物であることが確認され、さらに『A Great British Spraycation』と名付けられました。

 

バンクシーは自転車のタイヤや砂山など、周囲に放置されたものを再利用することに長けています。この作品シリーズでも、屋外に放置されたさまざまなオブジェを利用しています。

 

全体的に、この作品シリーズは、新型コロナウイルスの影響で観光業が打撃を受けた時期に、政府が促した「ステイケーション」に対する風刺や、イギリスの地方都市の注目度を高めることに貢献したと言えます。

 

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作品一覧

『全員同じ船上にいる』オルトンブロード


『全員同じ船上にいる』オルトンブロード
『全員同じ船上にいる』オルトンブロード

バンクシーが描いた「We're all in the same boat」という作品は、サフォーク州オルトンブロードのニコラス・エブリット公園のランズスプリング排水路にかかる橋の側面に描かれたものです。

 

この作品は、周囲に捨てられていた波板をボートの代わりに使用しており、壁には白い文字で「We're all in the same boat」と書かれています。この作品は、人々が共通の問題に直面しているというメッセージが込められています。

 

しかしながら、この作品には、排水溝を塞ぐ位置に描かれているという問題がありました。洪水の懸念から波板は撤去されましたが、アートが色あせないように紫外線安定化ポリカーボネートスクリーンで覆われた保護壁を設置しています。この保護壁により、この作品は今でも現存しており、多くの人々が見ることができます。

 

この作品は、バンクシーが使用する素材やテーマについての特徴的な例であり、捨てられていた素材を再利用し、社会的な問題にアートを通じて関心を引き起こすことができるという点で、バンクシーの作品制作の哲学を体現していると言えます。

 

『カモメとコンテナ』ローストフト


「カモメとコンテナ」は、ローストフトのデンマーク・ロードとカトワイク・ウェイの角にある家の側面に描かれました。

 

この作品は、断熱材の断片が入ったコンテナの横に描かれており、カモメが断片を盗むというイメージが描かれています。この作品は、自然と都市の共存に対するバンクシーのメッセージを表現していると解釈されています。

 

ここでもバンクシーは、捨てられた素材を再利用し、都市空間にアートを取り込むことによって、社会問題に対するアートを通じた啓発を促進しています。

 

カモメの壁画もその例のひとつであり、不必要な断熱材が捨てられている状況を指摘し、それを鳥が利用する様子を描くことによって、自然と都市の関係性を見直すきっかけを与えました。

 

『バールを持った子供』ローストフト


「バールを持った子ども」という作品は、ロンドン・ロードにある旧ローストフト・エレクトリカル・ストアの側面に描かれていました。

 

この作品は、子どもがバールで砂の城を作る様子が描かれていますが、ここでもバンクシーは物理的な道具を使っています。具体的には、バンクシーは面の敷板が引き剥がし、下にあったと思われる砂で城を作り、それを壁画の前に加えています。

 

作品を保護するために保護柵が設置されていましたが、しかし、この作品は、建物の所有者が壁を撤去して、翌年1月に非公開で売却されることになりました。

 

このような例は過去に何度もあります。バンクシーの作品は、時には取り壊されたり、撤去されたりすることがあり、その作品の長期的な保存と公開展示が難しいという問題があります。

 

単純に破壊されることもあれば、盗まれることもあり、作品を描かれた土地の所有者により市場に売却されることがあります。

 

『デッキチェアの上のネズミ』ローストフト


「デッキチェアの上のネズミ」は、ローストフトのリンクスヒルの下にある護岸に描かれた作品です。

 

この作品では、ネズミがデッキチェアにもたれ、カクテルを飲んでいる姿が描かれています。排水バイプの下には下水が垂れ流された跡があり、が垂れ流されてた水からカクテルが作られています。

 

発見から1週間後、壁画は白いペンキで汚され、一部は破損されたまま残っています。しかし、この作品は現在も保護柵で覆われ存在しており、多くの人々がそれを見ることができます。

 

この作品には、環境問題と社会的不平等が暗示されています。排水パイプから垂れ流される下水や、不衛生な条件で暮らす人々についての問題が表現されています。

 

『バス停で踊るダンサーたち』グレートヤーマス


『バス停で踊るダンサーたち」と呼ばれるこの作品は、イギリスのグレート・ヤーマスにあるドミララティ・ロードにあるバス停の上に描かれています。

 

この作品は、踊るカップルとアコーディオンを演奏する男性が描かれたもので、バス停の屋根はダンスホールの床に見立てられています。この壁画は、町のガスホルダーがあるアドミララルティ・ロードにあるバス停の上にあり、

 

この作品は、グレート・ヤーマス区議会のリーダーであるカール・スミスによって発見されました。しかし、バンクシーの作品であることを確定するまでに1週間はかかったといいます。その後、この作品は保護柵で覆われ、今もなお残っています。

 

バンクシーの作品は、しばしば社会問題をテーマにしていますが、この作品はポジティブなメッセージを送っています。ダンサーたちは、愛や楽しさの象徴として表現されており、人々を元気づけることができるようにデザインされています。

 

『UFOキャッチャー』ゴルルストン


「UFOキャッチャー」と呼ばれるこの作品は、ゴールストンの北ビーチにあります。。休憩室のベンチに座っている人の上を、空中停止しているゲームセンターのUFOキャッチャを描いたものです。

 

しかし、この作品は描かれた直後にいたずらに遭い、下に6匹のテディベアのステンシルが描かれ、「Banksy Collaboration Emo」という文字が加えられました。他人の作品を改ざんするこのような行為は、ストリート・アートではよく見られるもので「バフ(buff)」と呼ばれます。

 

この作品は、議会によって清掃され、保護柵が設置されましたが、それでもなお多くの人々が訪れ、写真を撮影するために立ち寄っています。

『モデルヨット・ポンド・ディンギー』ゴルルストン


最も物議を醸したバンクシー作品の1つは、ゴムボートにしがみつく2人の子供と、それを膨らませる大人が飲み物に気を取られている様子を描いたものです。

 

この作品は『UFOキャッチャー』の反対側にあるゴールストンのモデルヨット池の壁に描かれましたが、2018年に近くで3歳の女の子がトランポリンから投げだされて亡くなる事件があったため、すぐに塗り替えられました。その後、作品があったコンクリート壁の一部が撤去されました。

 

この事件は、地域社会に大きな衝撃を与え、作品が描かれた場所と事件との類似点が指摘され、議論を呼びました。

 

議会は、この作品を修復して、街のどこかで人々が無料で見ることができるようにすることを検討しています。しかし、この作品はバンクシーのウェブサイトからも削除されました。

 

『フレデリック・サベージ像』キングス・リン、グアノック・プレイス


キングス・リンにある「フレデリック・サベージ像」は、100年以上前にガノック・プレイスとロンドン・ロード・ウエストの角に設置され、観光名所となっています。この銅像は1800 年代に蒸気動力の遊園地機械を発明したことで有名で、後に市長になったフレデリック・サベージ像を改ざんしたものです。

 

 

アイスクリームコーンに見立てられた三角コーンを手にして、口からはピンクの舌が垂れ下がっています。これもバンクシー作であることは、バンクシーのビデオから確認できます。

 

C&L ニュースエージェントのジェイド・ハンプソンは、バンクシーが 8 月 4 日に訪問し、足跡を残したとリン・ニュースに語った。

 

しかし、アイスクリームのコーンと舌は、住民からの苦情を受けて、市職員によって取り壊されました。

 

『ヤドカリ』クロマー


「ヤドカリ」は、クロム・ビーチの海壁に描かれた壁もので、ヤドカリの群れが描かれています。貝殻に入った1匹が「高級賃貸のみ」と書かれた看板を裸のヤドカリに掲げています。この町は、カニ産業と住宅費で有名で、この壁画には地元の住宅危機への切実なメッセージが込められています。

 

クロマー地域では、2,500人の住宅待機者を抱えている一方で、5,400軒のセカンドハウスがあるという状況です。。

 

しかし、この壁画は後に破壊されてしまいました。当初は、防護柵で保護されていたのですが、何者かによって破壊されてしまいました。

 

「馬小屋」(グレート・ヤーマス)


『馬小屋』はグレート・ヤーマスにあるメリベール・モデル・ビレッジに設置されたオブジェ作品です。側面に「Go Big or Go Home」という言葉が走り書きされています。壁に立てかけられた車輪の上にネズミが描かれています。

 

馬小屋から馬が顔を出し、厩舎の様子にショックを受けてかごのりんごを落としてしまった少女のフィギアを置かれています。

 

バンクシーには、精巧なミニチュアやモデルを作成するアニメーター、モデル製作者、ファブリケーターのクルーがいるという。

 

バンクシーのサイン入りミニチュア馬小屋は、8月6日に置かれました。その後、小さな小屋は保護するため、敷地外に持ち出されました。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

  • この作品シリーズは、バンクシーが2021年にイギリスの東アングリア地方の海岸都市に描いたアート作品で、新型コロナウイルスの影響で打撃を受けたイギリスの観光業を支援することを目的としています。
  • 一方で、政府が促した「ステイケーション」に対する皮肉や風刺が込められています。
  • バンクシーは自転車のタイヤや砂山など、周囲に放置されたものを再利用することに長けており、この作品シリーズでも、屋外に放置されたさまざまなオブジェを利用しています。

 

バンクシーの次回作もこのような文脈になると予測され、今後の作品からも目が離せません!!!

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■参考文献

https://www.bbc.com/news/uk-england-norfolk-61968001、2023年3月10日アクセス