【美術解説】幻想耽美「日本のアンダーグラウンド・アート」

幻想耽美-Japanese Erotica Contemporary Art

日本のアンダーグラウンド・アート


概要


アンダーグラウンドな作家達の作品集


「幻想耽美 Japanese Erotica in Contemporary Art」は、2014年9月21日にパイインターナショナルから刊行された美しくも退廃的なアンダーグラウンド・アートの世界観を描き出す50名の作品を収録したオムニバス作品集である。アート・イラストレーション・ドール・フィギュア・コミックなどさまざまなジャンルの人気作家から新進気鋭の作家まで横断的に紹介されている。

客体性憧憬


成熟の拒否という日本独自の自己愛


序文は高原英理。高原としては「幻想耽美」よりも「客体性憧憬」というタイトルを提案している。

 

「客体性憧憬」とは、主体性を求めるのではなく、自己の客体性の幻視を望む傾向という意味。美的に描こうとする自己愛である。また客体性憧憬はその手法にこそローカリティはないものの、描かかれる映像的想像の展開には明らかな日本特有の自意識の歴史が反映したものである。

 

そして高原は、日本特有の美的に描こうとする自己愛である「客体性憧憬」とは「成熟の拒否」で、鑑賞者は未来的発展や成熟を放棄した少年・少女たちの運命的無力とともに訪れる死と破局の影を慈しむという。なお欧米美術における「客体性憧憬」の主題は「アンチ・ヘテロセクシャル」だという。

  • 日本の客体性憧憬=成熟の拒否(幼児性愛)
  • 欧米の客体性憧憬=異性愛の拒否(同性愛)

澁澤龍彦から顕在化する客体性憧憬


客体性憧憬(成熟の拒否)は日本において昔から潜在的にありはしたが、顕在化してきたのは1960年代に澁澤龍彦がシュルレアリスムを「異端芸術」と紹介し始めた時期であるという。この「異端芸術」という言葉は極めて不正確で、それはキャッチ・コピーのような使われ方しかしていなかったものの、当時紹介された、四谷シモン、金子國義、宇野亜喜良らは日本の客体性憧憬を表現した代表的な作家と高原は指摘する。稲垣足穂、横尾忠則、篠山紀信にもそれらの傾向が見られる。

かわいいと成熟の拒否


70年代にはいると若い女性のあいだで「かわいい」ものに客体性憧憬を見出す傾向が始まる。80年代に入るとファッション誌『Olive』が「成熟を拒否せよ、少女であることは美しい」というメッセージを明確に伝え、その理想は女性たちに受容された。

 

また音楽のジャンルで「ゴシック・ロック」、漫画では「ガロ」で丸尾末広や花輪和一に受け継がれていったが、ゴシック・ロックはそれを求める若い女性のあいだへ「ゴシック・ロリータ」として、丸尾末広や花輪和一に影響を与えた高畑華梢や伊藤彦造らはいずれも戦前の美少年美少女憧憬文化を形成した画家で、「かわいい」文化と密接な関連がある。

 

90年代に入ると「ゴス」「ゴシック」という言葉が広まり始める。この時代に四谷シモンから始まった日本の球体関節人形の独自発展が開花し始める。恋月姫、清水真理、三浦悦子などが代表的な作家であり、ここに四谷シモンや澁澤龍彦経由で客体性憧憬の遺伝子が入り込んでいる。

 

90年代後半から00年代にかけて、過剰な憧憬や過剰な装飾といった傾向は抑えられつつあるが、2010年前後からまた客体性憧憬の表出は再び発動し始め、今日に至るという。


■参考文献

「幻想耽美」パイインターナショナル