【美術解説】清水真理「ポップでゴシックな球体関節人形」

清水真理 / Mari Shimizu

ポップシュルレアリスム・ドール


概要


清水真理は日本の人形作家。熊本県天草出身。西欧・東欧の宗教美術や日本の土着的文化を取り入れて作品を制作している。見世物小屋、牢獄、鳥かごのようなものを身体に宿したシュルレアリスム風な球体関節人形が特徴である。人形作家以前はアニメーション作家として知られている。

 

2000年に、バンド『ムック』のCDジャケットに人形写真が使われ注目を集めるようになる。テレビドラマ『赤い糸の女』(東海テレビ)や「カラマーゾフの兄弟」(フジテレビ)などさまざまなメディアへ人形を提供。

 

2014年に架空の人形と自身のリアリティを融合したシュルレアリム個展「ポップ・シュルレアリスム宣言」を開催。清水によれば、2013年にイタリア旅行した際、たまたまクリスチャン・アンダーソンの『Pop Surrealism』に出会い影響を受け、その後、自分の属性を表明する意図として同語を引用。90年前にナチス影響下のドイツで作られたベルメールの作品と現代日本の球体関節人形をいつまでも同じ地平で語ることに疑問を感じ、区別する意図もあったという。

 

2015年には映画監督・蜂須賀健太郎によるダーク・ファンタジー映画『Alice in Dreamland アリス・イン・ドリーム』へ人形を提供。この映画は清水の球体関節人形を撮影、キャプチャし、コンピュータ上でフラッシュ技法とカット・アウトという技法を併用して作ったアニメーションである。清水は映画用に約20体の人形を制作。

 

2016年にはロサンゼルスで個展を開催。現地でポップシュルレアリスムの源流に触れる。

 

また2000年より人形教室アトリエ果樹園開講している。人形教室生徒募集中。

おもな個展


2016年 清水真理個展「アリス・イン・ドリームランド」(台北・ジュンク堂光復南路店)

2016年 清水真理個展「滅びの美学」(ロサンゼルス・HIVE Gallery and Studio)

2016年 清水真理個展「Wachtraum〜白昼夢〜」(東京・スパンアートギャラリー)

2014年 清水真理 個展「Beauty & The Beast」(大阪・乙画廊)

2014年 清水真理個展「INNOCENT」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2014年 清水真理個展「驚異の小宇宙 vol.1 ルドルフの本棚」(東京・JUDITH ARTS & ANTIQUES)

2014年 清水真理個展「ポップ・シュルレアリスム宣言」(東京・ヴァニラ画廊)

2013年 清水真理個展「Labyrinthos~迷宮~」(大阪・乙画廊)

2013年 清水真理個展「Memories~思い出の少女たち~」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2013年 清水真理20週年記念個展1993〜2013「St.Freaks 異なる異形」(東京・ギャラリー新宿座)

2012年 清水真理個展「えすぺらんさ〜希望〜」(香川県小豆島・MeiPAM)

2012年 清水真理個展「Epiphany〜礼賛〜」(大阪・乙画廊)

2012年 清水真理個展「Primavera〜プリマヴェーラ〜」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2012年 清水真理個展「Metamorphose〜変容〜」(東京・ヴァニラ画廊)

2011年 清水真理個展「花物語」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2011年 清水真理個展「NIRVANA~涅槃〜」(東京・パラボリカ・ビス)

2011年 清水真理個展「奇妙な動物園」(東京・ペイ・デ・フェ)

2010年 清水真理個展「片足のマリア〜Strange Angel Garden〜」(東京・パラボリカ・ビス)

2010年 清水真理個展「Secret Garden」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2009年 清水真理個展「Victorian Nightmare Garden〜もう一つのアリス」(東京・パラボリカ・ビス)

2009年 清水真理個展「Blue Monday」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2008年 清水真理個展「聖書と木馬」(東京・青木画廊)

2008年 清水真理個展「ノスタルジア」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

2006年 清水真理個展「Fairy Tail」(東京・銀座人形館Angel Dolls)

 

 

おもなグループ展


2015年 「華宵少女と人形幻想展」~清水真理と弟子たち~(愛媛・高畠高畠華宵大正ロマン館)

2015年 「幽霊少女/GHOST LOLITA」(東京・画廊 珈琲 Zaroff)

2015年 ザッヘル=マゾッホに捧ぐ「毛皮を着たヴィーナス」― 倒錯されたエロチシズムの光と影 ―(東京・スパンアートギャラリー)

2014年 清水真理×泥方陽菜×林美登利 三人展「エレゲイア」(東京・ヴァニラ画廊)

2014年 「夜想#人形展」(東京・パラボリカ・ビス)

2014年 「人形偏愛主義〜ヒトガタへの受胎告知〜」(東京・Bunkamura Gallery)

2014年 「夢―こんな夢を見た」(東京・画廊 珈琲 Zaroff)

2014年 清水真理×向川貴晃 二人展「吸血鬼幻想」(東京・スパンアートギャラリー)

 

 

人形提供・コラボレーション


【映画】「Alice in Dreamland アリス・イン・ドリームランド」

【舞台】虚飾集団廻天百眼「少女椿」ほか

【音楽】ムック CDアートワーク


その他 セーラー服おじさんの撮影

略歴


清水真理は、チチハル出身でバブル後にアルコールとギャンブル依存症で借金を抱え、現在は生活保護を受けている父と、次々と新興宗教に入信してはお布施を繰り返していた母のあいだに、熊本県天草で生を受けた。

 

祖父は中国に満州があった時代にハルピンでキャバレーを経営し、戦後は天草でキャバレーを開業。祖父母、叔父、叔母、両親すべて離婚歴があり、ほかに児童養護施設で育った従兄弟、近親婚とトラウマで成人してから発狂した親戚などの血統を持つという。

 

清水は、こうした家庭環境に嫌気がさして、家出同然で上京し、多摩美術大学美術学部二部芸術学科映像コースに入学する。大学時代にブラザーズ・クエイやヤン・シュヴァンクマイエルの人形アニメーションに影響を受け、自身も人形アニメーションの制作を始めるようになる。

 

人形を被写体に選択した理由はほかに、暗い家庭環境を背景にもつ清水にとって、当時流行していた自分や自分の家族を撮るといったナルシズム的な映像表現に違和感をかんじ、その反発として人形を被写体として選んだのだという。

 

その後、清水は夢に現れた娼婦人形「アニマ」から「敗北した人間を、敗者の真実を代弁せよ」と告知を受け、自分はもちろんのこと、貧困者、ネグレクト、児童虐待、社会から見捨てられた人々を代弁するかたちで本格的に人形創作を始める。彼女の人形の特徴のひとつである見世物小屋のような下半身は、祖父が経営していた天草のキャバレーを象徴するものであるという。

 

幼少の頃から天草のキリスト教文化に触れてきた清水は、ヨーロッパ旅行でキリスト教の聖女たちの絵画や彫刻にインスパイアを受け、その後は西洋古典絵画やキリスト教文化を題材に制作することが増えている。2013年には、天草市立天草キリシタン館の「天草四郎展」に清水真理制作の天草四郎の人形が展示、寄贈。

 

また人形制作を始めて20年の節目の年にあたる同年の2013年、学生時代のスケッチやアニメーション作品、20年間清水の作品を撮影してきた田中流の写真作品などの資料とともに振り返る回顧展『清水真理20周年記念個展1993~2013「St.Freaks ~聖なる異形~」』が、ギャラリー新宿座で開催された。

 

2014年には、架空の存在である人形と現実のファクターを結び付ける試みる表現として、シュルレアリスムに焦点を当てた個展「ポップ・シュルレアリム宣言」を開催。ブルトンの「シュルレアリスム宣言」から90年経つ現在、ヨーロッパで美術や文学において90年前に生まれたシュルレアリスムという言葉をもう一度問い直してみるという試みだった。


■参考文献

・樋口ヒロユキ『死想の血統 ゴシック・ロリータの系譜学』