【作品解説】奈良美智「The Girl with the Knife in Her Hand」

The Girl with the Knife in Her Hand

「頭の大きな女の子」の最初期の作品


奈良美智《The Girl with the Knife in Her Hand》,1991年
奈良美智《The Girl with the Knife in Her Hand》,1991年

《The Girl with the Knife in Her Hand》は、1991年に奈良美智によって制作されたアクリル絵画作品。150.5 cm x 140.02 cm x 2.22 cm。サンフランシスコ現代美術館所蔵。

 

この作品は、奈良美智の代表的なシリーズである「頭の大きな女の子」の最初期の画期的な作品である。平面的なドローイング、イラストやマンガの世界のように見えるが、実際は絵画独特の物質的な質感がある。

 

本作品は奈良がドイツ留学中の1991年に制作されている。この時期の奈良は88年からドイツのA.R.ペンクの指導のもとデュッセルドルフの美術アカデミーで6年間学んでいる。当時の奈良は、ペンクの影響やドイツの表現主義の影響を受け、黒く荒々しい輪郭線を持つシンプルな具象画を描いていた。少女の手にはナイフ、チェーンソー、ピストルなどの武器を所有していることが多い。本作品はその頃に描かれている。

 

赤い帽子とワンピースに身を包んだ少女が、こちらを睨むように見上げており、手にはナイフが握られている。これはむしろ、彼女を見下ろしている鑑賞者、つまり彼女を見下ろす大人たちを見上げている。

 

鑑賞者は彼女の丸みを帯びた顔、大きな豆の形をした目、額をかすめる髪の毛に目を奪われるが、彼女の手にはナイフが握られていることにふと気づく。その瞬間、私たちが抱いていた彼女に対する無垢さが思い込みであることが覆されてしまう。

 

この少女は、単にかわいいとか、無防備とかではない。武装しているわけではないが、それでも不穏な脅威をわれわれに与えていることは確かである。これらの矛盾が効果的な作品になっている。

 

奈良はナイフを持つ少女について以下のようにコメントしている。「見てください、おもちゃみたいに小さいですよ。そんなもので戦えると思いますか? そうは思わないですね。むしろ、私には、子供たちの周りにもっと大きなナイフを持った悪人たちがいるように見えるのです....」

 

2000年移行、この赤いドレスに身を包んだナイフを振り回す子供は、ただ放っておかれたいだけの静かで年上の女の子へと移行していく。