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【美術解説】三宅砂織「フォトグラムを使って多様な表現を行う現代美術家」

三宅砂織 / SAORI MIYAKE

フォトグラムを使って多様な表現を行う現代美術家


概要


三宅砂織(1975年〜)は日本の現代美術家(写真、映像、版画、ドローイング、インスタレーション)。

 

カメラを使わず印画紙上に直接物を置いたりして感光させてイメージを生成する写真技術「フォトグラム」の手法を使い幻想的な作品を制作している。

 

フォトグラムは、カメラレス写真と呼ばれることもあり、かつてシュルレアリストで写真家のマン・レイが使っていた「レイヨグラフ」と同じ技法である。

 

三宅は高校時代から日本画や油彩で芸術を本格的にはじめる。1998年京都市立芸術大学美術学部美術科卒業、1999年に英国王立芸術大学に交換留学、2000年に京都市立芸術大学大学院美術研究科で版画を専攻して修了。

 

初期は直接的な絵画から距離を取る手法としてリトグラフで版画と絵画の間のようなものを探求していたが、ある日、版画を作るための下絵をフィルムに描いて印画紙に焼いて写真作品にしてみたところ、可能性のある作品ができあがる。

 

絵ではなく「絵の影」を投影したものになるが、それは直接手で描いた像とも、カメラのレンズでつくった像ともいえない、見慣れない奥行きが生じるという。

 

以後、透明シートに写真を元にした複数のドローイングを描き、感光紙の上に重ね合わせて露光し、ドローイングの影を現像するというプロセスで制作している。ネガポジが反転し、黒で描いた部分は白くなり、絵の具を載せなかった部分は黒くなる。

 

画面上の意味において、「影」は「光」へ、「光」は「影」へと反転する。

 

「西洋絵画を考えるうえでも光は大きなテーマであるが、重要なのは光というよりも影の方かもしれない」と三宅は話している。

 

三宅は、人間が有形無形のあらゆる事象へ眼を差し向け、なんらかの方法でイメージにすること、イメージにしたものを現実の中で共有していくことに関心を寄せており、そのような視覚における日常的な営みに根ざし、人々の眼差しに内在している「絵画的な像」を多声的に浮かびあがらせようとしている。

 

2010年にVOCA賞受賞。2018年に国立新美術館「第20回 DOMANI-明日転」、2019年に若手アーティストの活動を通じて国内の現代美術の潮流のひとつを紹介する東京都現代美術館の企画「MOTマニュアル」に参加。

 

近年では、他人が撮影した既存の写真や印刷物をもとに、自身でフォトグラム形式に変換しながら再表出させる「The Missing Shade」と呼ばれるシリーズや、映像作品やインスタレーション作品への派生など表現の幅を広げている。

 

なお、「The Missing Shade」は東京都現代美術館に収蔵されている。