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【作品解説】ジャン=ミシェル・バスキア「黒人の歴史」

黒人の歴史 / History of the Black People

西洋社会における奴隷制の歴史の忘却を批判


ジャン=ミシェル・バスキア《黒人の歴史》,1983年
ジャン=ミシェル・バスキア《黒人の歴史》,1983年

概要


作者 ジャン=ミシェル・バスキア
制作年 1983年
メディウム パネルにアクリル、オイルスティック
ムーブメント 新表現主義
サイズ 172.5 cm × 358 cm

《無題(黒人の歴史)》は、1983年にジャン=ミシェル・バスキアが制作した絵画。《ナイル》と呼ばれることもある。蝶番付きの木製ボードに貼り付けられた3枚のキャンバスで構成されている。

 

本作品でバスキアは、古代エジプトとアメリカ南部の文化を題材として、西洋社会の認識と奴隷制に対する忘却を批判している。

 

アンドレア・フローネによると、この絵は「エジプト人をアフリカ人として再認識し、西洋文明の発祥地としての古代エジプトの概念を覆すもの」だという。

 

絵の中心には、オシリスに導かれてナイル川を下っているエジプトの船の様子を描かれている。

 

絵の右パネルには、黒人の人物の上「ESCLAVE, SLAVE, ESCLAVE」という文字が描かれている。また、「NILE」という文字の2文字が消されているが、フローネによれば「消されたり落書きされた文字は、エジプト人が黒人であり、黒人が奴隷にされていたことを都合よく忘れてしまった歴史家の行為を反映しているのかもしれない」だという。

 

絵の左パネルには、「NUBA」の文字の下にヌビア風の仮面が2つ描かれている。ヌビア人は歴史的に肌の色が濃く、エジプト人からは奴隷とみなされていた。

 

バスキアはスペイン語を作品に取り入れることが多く、一番下のマスクと女性のシルエットの間に「MUJER」(女)と書かれているのが特徴である。

 

『ラティーノ文化百科事典』の編集であるチャールズ・M・テイタムは、「ナイルは、バスキアが受け継いできたスペイン語の単語やアフリカの仮面などのシンボルを、現代のストリートライフの激動の体験と結びつけている」と分析している。

 

残りの部分で、「黒人の商業的搾取」を強調している。たとえば、大西洋の奴隷貿易のイメージは、何世紀も前のエジプトの奴隷貿易のイメージと一緒に、象形文字のように並置している。

 

中央のパネルに「SICKLE」という言葉が繰り返し使われているが、これはアメリカの奴隷貿易、プランテーション制度による奴隷労働を直接意味している。また、アメリカのアフリカ系アメリカ人に多く見られる鎌状赤血球貧血という病気を意味することもある。

 

作品の右パネルに描かれている「SALT」という文字は、大西洋の奴隷貿易を意味しており、当時、塩も重要な商品として取引されていた。

 

絵の上部には「EL GRAN ESPECTACULO」(壮大なスペクタクル)という言葉が掲げられており、「何世紀にもわたる恥ずべき悲劇を皮肉ったもの」となっている。


■参考文献

https://en.wikipedia.org/wiki/Untitled_(History_of_the_Black_People)、2021年12月8日アクセス