膝を曲げて座る女/ Seated Woman with Bent Knees
孤独と色彩が織りなす、シーレの世界
エゴン・シーレは、その独特な作風と強烈な個性で、観る者を惹きつける画家です。彼の作品には、空虚な背景に浮かぶ被写体、歪んだ線、そして鮮やかな色彩が特徴的に描かれています。1917年の本作品もその一例で、挑発的なポーズと鋭い視線、そして絵具の質感が織りなす力強い表現で、シーレ独自の芸術世界を象徴しています。
概要
作者 | エゴン・シーレ |
制作年 | 1917年 |
サイズ | 46 cm × 30.5 cm |
メディウム | 紙に水彩、グワッシュ、クレヨン |
所蔵者 | プラハ国立美術館 |
1917年にエゴン・シーレが制作した『膝を曲げて座る女』は、紙に水彩、ガッシュ、黒のクレヨンを用いた作品で、モデルは彼の妻エディスです。この作品は、限定された色使い、空虚な白い背景、鋭いストロークを特徴とし、伝統的な美の概念を覆す独自の美学を体現しています。
シーレは、オーストリア表現主義の旗手として、美と醜の境界を揺さぶる挑発的な作品を多く残しました。『膝を曲げて座る女』でも、彼はモデルのポーズを大胆に工夫し、醜く歪んだ身体でありながらも挑発的な美を描き出しています。
この作品はチェコ共和国プラハのプラハ国立美術館に所蔵されています。
鑑賞ポイント
- 限定された色使い
- 醜く歪んだ身体
- 鋭いストローク
色彩と構成
この作品では、地面に座った女性がまたを開き、カジュアルで挑発的なポーズをとっています。一見リラックスしているように見えますが、彼女の表情からは神経質なエネルギーや攻撃性が感じられます。
姿勢は特徴的で、曲げた膝に頭をもたせかけ、もう片方の足を横に伸ばしています。彼女の緋色の唇、朱色の髪、セージグリーンの服、シュミーズ、そしてストッキングといったファッションの構成は鮮やかで現代的な印象を与えます。
緋色の唇や朱色の髪と対照的な補色の緑のトップス、ペチコートの使い方から、シーレの色彩感覚の高さが伺えます。
作品に使われている色は、クリーム色、白、黒、緑、赤、オレンジといった限られたパレットで統一されています。この限定された色彩が、作品全体に独特の雰囲気を生み出しています。
背景は、被写体を完全に囲むような空白、いわゆる「負の空間」として描かれています。これは、シーレの作品にしばしば見られる特徴で、被写体が空虚の中に浮かんでいるような印象を与えます。
また、彼女の鋭い視線は、鑑賞者をまっすぐ見据え、強い存在感を放っています。
技術
この作品は、紙にガッシュ、水彩、黒クレヨンを用いて描かれています。髪、肌、服の表現には、シーレ独特の長く速い筆致が見られ、斑点状の質感が特徴的です。
シーレは「表現力豊かな色調と、ガッシュで描かれた目に見えるストローク」を巧みに操ることで、『座る女』の視覚的存在感の完成度を高めました。
この作品で見られる線や質感の豊かな表現は、シーレが「かなり乾いた、かき混ぜた絵の具」と「硬い筆、そして部分ごとに異なる水の量」を巧みに使った結果です。例えば、人物の髪は、ストッキングを描くときよりも流動性の高い絵具を使って表現されています。
背景
1907年、エゴン・シーレはウィーン美術アカデミーに入学しました。そこで、当時すでに有名だった画家グスタフ・クリムトと出会います。クリムトは、シーレにとって良き指導者であり、恩人でもありました。彼はシーレに他の画家の作品や名作を紹介し、芸術の道を広げる手助けをしました。
1909年、シーレは新芸術グループを立ち上げ、自分のスタイルを追求します。1910年になると、彼は大胆なヌード作品を発表し、注目を集めるようになりました。これがきっかけで、彼の名前が広く知られるようになります。
シーレの作品は、歪んだ人体やねじれた線、そして露骨な性的表現が特徴的です。当時の批評家たちからは賛否両論がありましたが、その独特の作風は今も高く評価されています。
1915年、シーレはエディス・ハルムスという女性と結婚します。結婚後、エディスとその妹アデーレは、シーレの絵画にたびたび登場し、彼のインスピレーションの源(ミューズ)として大きな役割を果たしました。
1915年から1918年の間、シーレは自然な人体表現と、特徴的な歪んだ輪郭線を融合させた作品を次々と生み出します。これにより、彼は独自のスタイルを確立した芸術家としての地位を確立しました。本作品はこの頃に制作されたものです。
■参考文献
・https://en.wikipedia.org/wiki/Seated_Woman_with_Bent_Knees、2023年1月9日アクセス