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【作品解説】マックス・エルンスト「森」

森 / The Forest

グロテスクな森と円状の帯


マックス・エルンスト『森』,1927年-1928年
マックス・エルンスト『森』,1927年-1928年

概要


作者 マックス・エルンスト
制作年 1927年-1928年
媒体 キャンバスに油彩
サイズ 96.3 x 129.5 cm
所蔵 グッゲンハイム美術館

マックス・エルンストの『森』は1927年に制作され、彼が最も愛したテーマである「森」を描いた代表的な作品です。この「森」シリーズは1927年から1928年の間に80点以上制作されており、鬱蒼とした森のイメージを通じて、彼の独特な感性が表現されています。

 

前景に描かれた不可解でグロテスクな柵のような形状は森そのものを象徴しています。この森のイメージは、エルンストが幼少期を過ごしたドイツの森から着想を得たものであり、彼にとって「魅惑」と「恐怖」の両方を象徴するものでした。

 

1934年の『Minotaure』誌に掲載された彼のエッセイ「Les Mystères de la forêt(森の神秘)」は、さまざまな種類の森に対する彼の魅力を生き生きと伝えています。グッゲンハイム美術館が所蔵しているこの作品は、エルンストがオセアニアの森に見出した特徴と共鳴しています。

 

「森は、野蛮で不可侵、黒くて赤褐色、派手で世俗的で、群がり、正反対で、無頓着で、凶暴で、熱烈で、昨日も明日もない、愛すべき森のようだ。裸で、森はただその威厳と神秘性をまとっているだけである」(マックス・エルンスト)。

 

美術史家のフランツ・ツェルガーは、この森のイメージがアルノルト・ベックリンの『死の島』に影響を受けていると指摘しています。

 

『森』の制作には、エルンストが開発した「グラッタージュ」という技法が使用されています。この技法では、キャンバスに塗られた絵の具を凹凸のある表面で削り取ることで独特の質感を生み出します。『森』ではグリーン、レッド、オレンジ、イエローといった色彩が用いられ、幻想的で神秘的な雰囲気を作り出しています。

 

フロッタージュとグラッタージュ技法


マックス・エルンストは、1924年にアンドレ・ブルトンの思想に影響を受け、独自の技法「フロッタージュ」を生み出しました。

 

フロッタージュの基本は、紙を木の板や他の凹凸のある素材の上に置き、鉛筆やチョークで擦ることで、その模様を紙に転写するというものです。最初は木目模様を転写することから始まりましたが、彼はこれをさらに発展させ、油絵に応用しました。

 

油絵では、金網や椅子の幌、葉っぱ、ボタン、麻ひもといった素材の上にキャンバスを置き、絵の具を削り出す手法を取り入れました。これにより、偶然性を含む独特の質感が生まれます。

 

さらに、エルンストはフロッタージュの技法を発展させ、「グラッタージュ」という新たな表現を使い始めました。これは、複数の絵の具を層状に重ねたキャンバスを凹凸のある素材の上に置き、パレットナイフで上層を削り取ることで、下地の色や模様を浮かび上がらせる技法です。

 

エルンストの作品『森』では、キャンバスを粗い木の表面に置き、油絵具をこすりつけたあと、さらに木目を浮かび上がらせるように工夫して仕上げたと考えられています。このような実験的なアプローチにより、彼の作品には独自の視覚的魅力が生まれました。

 

青空の中に浮かぶ円状の帯は、月または太陽を象徴しており、その位置が森の前景と背景の両方にまたがることで、錯視的な効果を生み出しています。このシリーズのキャンバスでは、樹木や天体を象徴する円盤が重要な要素として頻繁に登場します。


■参考文献

https://www.guggenheim.org/artwork/1133、2025年1月6日アクセス