【作品解説】ウィトルウィルス的人体図「レオナルドの理想的な身体プロポーション」

ウィトルウィウス的人体図 / Vitruvian Man

レオナルドの理想的な身体プロポーション


概要


作者 レオナルド・ダ・ヴィンチ
制作年 1490年頃 
サイズ 34.6 cm × 25.5 cm
表現媒体 紙にペンとインク
所蔵者 アカデミア美術館 (ヴェネツィア)

『ウィトルウィウス的人体図』は、レオナルド・ダ・ヴィンチが1490年頃に描いたドローイング。このドローイングは理想的な人体のプロポーションを表現しており、「プロポーションの法則」あるいは「人体の調和」と呼ばれることがある。

 

円と四角にきっちり内接した2人の男性の裸体が重ねられた状態が描かれている。2人の手足の位置は異なる。

 

正方形と円形は、古代ローマの建築家ヴィトルヴィウスの『建築家論』の第三書内の説明文に由来している。正方形は地と俗、円は天と聖を象徴している。

 

ヴェネツィアのアカデミア美術館が所蔵しているが常設展示はされていない。最近では、フランスとイタリアの協定の一環として、2019年10月24日から2020年2月24日まで、ルーヴル美術館のダ・ヴィンチ作品展で展示された。

解説


身体は宇宙のメカニズムの小宇宙である


このイメージは、ルネサンス期の数学と芸術の融合を示し、レオナルドのプロポーションに関する深い研究を示している。

 

また、この絵は、自然と人間との関連性を見出そうとするレオナルドの実験の基盤的な作品でもある。

 

ブリタニカ百科事典では「レオナルドは、解剖図や『ウィトルウィルス人』で制作した人体の巨大な絵グラフを「小宇宙の宇宙像」として描いた。人体の働きを宇宙のメカニズムのアナロジーとして捉えたのである。

ウィトルウィルスの『建築家論』


 

 鏡文字で書かれた付属テキストのレオナルドの説明によれば、この作品はウィトルウィウスの『建築家論 3.1.2-3』に記されている(男性の)人体のプロポーションの研究の一環として制作されたものであるという。

 

ウィトルウィルスは本の中で建築設計においては人体の各種比率が理想的だと書いている。

 

「へそは通常人体の中央に位置している。人間があおむけに横たわって両手両脚をまっすぐ伸ばすと、へそを中心として指先とつま先を通る円が描けるはずだ。円だけではない。人体は正方形の枠の中にもぴったりおさまるだろう」

 

また、根っからの科学者であるレオナルドは、自然のあらゆるものを厳密に測定し、関連とパターンを探した。顔の各部分の大きさ、手足の長さを測定して、理想的な人間の身体プロポーションを書き留めていた。

 

「唇の合わせ目から鼻の下までの距離が、顔全体の長さの7分の1であること。唇からあごの下までの距離が顔の3分の1を占め、鼻から額までの長さと等しいこと。鼻の中心点からあごの下までの距離が、顔の長さの半分になること」

 

レオナルドはウィトルウィウスのメモを描いているように見えるが、正確には従っていない。円と四角を描く際、彼は四角と円が両方とも人間のへそを中心にすることはないという。代わりに股間が中心になるという見解を示している。この解釈がレオナルドの絵の革新的な部分であり、それ以前のウィトルウィウスのイラストレーションと区別するものである。

 

レオナルドはまた、指先が頭頂部と水平になるように腕を上げた状態の絵を描いている。本来のウィトルウィウスの理論に従えば、腕がへそを通る線を形成する角度になるはずである。この点でもレオナルドのウィトルウィウスのイラストレーションは異なる。

 

腕をまっすぐに伸ばし、足を重ねたポーズは正方形の一辺に等しくなる。

 

一方、手足を大の字に開いたポーズは円に内接している。このとき、身長の14分の1だけ低くなるように手脚を広げる必要があり、中指の先端が頭頂部に接する線のように腕をあげると、伸ばした手脚の中心はへそになり、股間と両脚の間に正三角形ができあがる。

ジャコモ・アンドレアからの影響


多くの芸術家たちが、人間は円と四角の両方に収まるというウィトルウィウスの理論を満たすような人物画に挑戦した。 レオナルドは、ルネサンス期の建築家でウィトルウィウスの専門家であった友人のジャコモ・アンドレアの作品に影響を受けたかもしれない。

 

レオナルドの作品と同様に、アンドレアの円はへそを中心に描かれているが、ポーズは1つしかない。

ジャコモ・アンドレアによるウィトルウィルスのプロトタイプ
ジャコモ・アンドレアによるウィトルウィルスのプロトタイプ

動画解説



■参考文献

https://en.wikipedia.org/wiki/Vitruvian_Man、2020年8月20日アクセス

 ・『ビジュアル ダ・ヴィンチ全記録』日経ナショナル・ジオグラフィック社