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【作品解説】サルバドール・ダリ「象」

象 / The Elephants

地上におけるどんな権力も宇宙では無力だ!


サルバドール・ダリ《象》(1948年)
サルバドール・ダリ《象》(1948年)

概要


作者 サルバドール・ダリ
制作年 1948年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ  
コレクション プライベートコレクション

《象》は1948年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。プライベートコレクションとなっている。

 

“宇宙象”というダリが作った足の長い象は、《聖アントワーヌの誘惑》《目覚めの一瞬前、ザクロの実のまわりを一匹の蜜蜂が飛んで生じた夢》など、さまざまな作品に現れるダリの代表的なイコン聖像の1つ。1946年に描かれた《聖アントワーヌの誘惑》で初めて宇宙象が誕生したとされている。

 

本作では、これまでの作品ではあくまで脇役だった宇宙象が主題として扱われている。原題は「The Elephants」である。

強さと弱さを同時に表現している


象は世界中のさまざまな場所や神話において、「支配」「強さ」「重さ」「権力」などを象徴するシンボルとして利用されてきた。しかし、ダリは「欲望がほとんど見えない多関節の足」として、権力のシンボルである象に細長いひょろっとした、ほとんど蜘蛛のような足を付けくわえて、強さと弱さの対比を表現しようとした。

 

また、象の背中に巨大なオベリスク(古代エジプトの記念碑のようなもの)を背負わせることで、ひ弱な足と強度な背中のコントラストを強めている。象が背負っているオベリスクはバロック時代のイタリアの彫刻家であるジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻《ミネルバ・オベリスク》からの引用である。

 

しかし、この象をよく見ると、ほとんど足に地が付いておらず、むしろ浮遊しているように見える。“宇宙象”という名前をつけて浮遊させているように描いている理由としてダリは、「宇宙の無重力空間では、ずっしりとした重みの象でも軽々と浮いてしまうものだから」と話している。「地上における権力(強さ)」と「宇宙における無重力(無力)」の対比を表したかったのだという。